日本がコロナショックで迷走している理由

これまで、データ活用における課題として「イシューの不在」について触れてきたが、現在、コロナショックという不確実性の高い状況において、私たちはまさしく「イシューの不在」がもたらす意思決定の混迷を目の当たりにしている。
時々刻々と状況が移り変わる中、コロナショック以来のデータはすでに大量に存在するが、これらをアナリティクスで解析し、その結果を政策に生かすためのさまざまなリソースを有しているはずの国も自治体も方針決定に苦慮し、一貫性のある方針を示せないままだ。結果、いまだに多くの人が信頼して参照できる防疫のためのプロトコルも検査体制も確立されておらず、新しい行動様式のコンセンサスも取れていない。
感染防止か、経済の維持か。医学的な安全の追求か、社会的な安心の醸成か。あるいは、自由か規制か、悲観か楽観か──。コロナショックの中で一見相反するさまざまな両極の価値観は、そのいずれにも理があり、いずれかの立場に肩入れすればたちまち矛盾が露呈する。AかBかという単純な選択はできないのはもちろん、足して2で割ることも、間を取ることもできないのだから意思決定が難しいのは当然だ。しかし、だからこそまずはイシューを明確化し、そのイシューの解決に向けて、どのようなデータを活用するか、どのようにアナリティクスを活用するかというインサイトドリブンのアプローチが必要ではないか。新型コロナウイルスの感染状況に関するさまざまなデータや指標が公表されてきたが、イシューが明確になっていれば、情報の受け手も納得感を得ることができるであろう。
2020年8月7日に政府の有識者会議「新型コロナウイルス感染症対策分科会」が、新型コロナウイルスの感染状況を4段階で評価するための6つの指標を取りまとめた*。これは、重症者や死者が少ないなど第1波とは異なる状況もあり、地域ごとの課題と必要な対策を的確に見極めることをイシューとして捉えた結果であると考えられる。
コロナショックにより、デジタル化の進展に拍車がかかり、企業のみならず消費者の行動やライフスタイルにおいても、デジタル空間で実現可能なモノについては、フィジカル空間からデジタル空間に軸足を移す動きが一段と加速している。この動きによって、ますます活用可能なデータの量が拡大し、より一層重要度が高まっていく。
それ故に、まずはイシューを明確化することが、今の日本や日本企業に求められている。イシューが明確化できれば、日本企業はデータを価値あるインサイトに転換する「インサイトドリブン経営」の実現に一歩近づくことができるのだ。
*日本経済新聞朝刊(2020年8月8日)