大隊長の選抜方法を見直せ

 国防長官のロバート M. ゲイツは、2011年にウェストポイント(米国陸軍士官学校)の士官候補生に向けて行った演説で、単刀直入にこう聞いた。

「組織のコンクリート壁、つまり、配属や昇進のプロセスに立ちはだかる、官僚的な硬い壁を打ち破るにはどうしたらよいでしょうか。優秀で聡明で、戦闘訓練も積んだ若い士官が軍を離れることなく、彼らを挑ませ、鼓舞して、将来的に陸軍を率いていくようにするには、どうしたらよいですか」。この問題は、「皆さんが属している軍隊が直面している最大の課題であり、率直に言うと、私が最も心配している問題です」。

 国防長官の懸念には根拠があった。2009年から10年にかけて、2万2000人の兵士を対象として実施された調査で、回答者の20%が上司は「有害な」リーダーだと答えたのである。

 別の調査では、軍隊が最も優れたメンバーを昇進させていると答えたのは、少佐の50%に満たなかった(企業社会の状況も同様に厳しい。ある研究では、上級幹部の半数がリーダーとしての役割を果たしていないと推測され、また別の研究では、マネジャーの16%が「有害」であり、20%が能力不足であるとされた)。

 こうした状況を受けて、陸軍は大隊長の選抜にまったく新しいプロセスを導入した。

 大隊長は幹部レベルの1つ目のポジションであり、通常は入隊後17年から20年が経過した者の中から選ばれる。陸軍では年間450人が大隊長に選抜され、大隊長1人は約500人の兵士の訓練と育成に責任を持つ。したがって、大隊長が戦闘への準備状況や下位のリーダー人材の維持に及ぼす影響は大きい。また、将官(元帥、大将、中将、少将、准将の総称。大佐の上の階級)は主に大隊長の中から選ばれる。

 だからこそ、陸軍参謀総長のジェームズ・マコンビルは、この大隊長選抜プロセスの全面的な見直しが、陸軍の人材改革の要となると言ったのである。

 来年(2021年)には、新しい制度の下で任命された第一級の士官たちが指揮権を持つようになる。この新たな選抜プロセスは、公共・民間両部門の最新の人材管理の考え方を活用したものだ。体力や認知力、コミュニケーション、心理面などがテストされ、加えて、同僚や部下による評価も実施される。面接はバイアスが生じないよう厳密に設計されている。

 この制度は、陸軍においてリーダー選抜の妥当性や信頼性を高め、選抜がよい影響を及ぼすことを狙ったものだ。しかし、どんな組織であっても、能力評価や昇進の手法を強化するうえで、この制度改革は大いに参考になることだろう。

工業化時代のプロセスを変える

 陸軍のリーダークラスの能力が、危機的な状況にあったのも不思議はない。1980年に士官の選抜を中央で集中して実施するようになって以来、大隊長の選抜は、審査の対象となる中佐の資料に、複数の上級士官が点数付けすることによって行われてきた。各中佐の資料に含まれていたのは、主観的な業績評価、任務経歴、そして公式の写真だった。

 毎年、審査の対象になったのは平均1900人で、1人分の資料の評価にかけられる時間は約1分半。業績評価のうち目を通される主文の長さは、一般的なツイートの文章よりも短いほどだった。

 大規模な官僚組織で変革を行うのは、当然のことながらけっして簡単なことではない。陸軍もさまざまな障害にぶつかった。陸軍の人事に関わる主な法律は、1947年と1980年に成立したものだった。それらの法律では、年間に数千人の少尉(最下級の士官)が任命され、最低限の能力を持つまで育成され、その後、階級や専門領域、業績をもとに任務を命じられ、配置されることが定められていた。人材はまるで交換可能な部品のように管理されており、またこの人事制度は法律に定められたものだったため、おおむね凍り付いたような状態だった。

 しかし、2018年に「ジョン・マケイン米国国防権限法」が議会を通過し、その法律によって、それまで欠けていた柔軟な人事的権限が陸軍に認められるようになった。当時、副参謀長だったマコンビルは、士官層の質を改善する計画を立て始めた。

 マコンビルは、歴代の参謀総長の中で、誰よりも人事に関する経験が豊かだった。軍の人材管理責任者である人事担当副参謀長を3年間務めたことから、陸軍内での数千の職務で必要とされる多様な人材に関してよく把握していた。また、第101空挺師団の元司令官としての経験から、兵士は一人ひとり独自の能力を持っており、陸軍において多様性が拡大していることを認識していた。

 さらには、子ども3人が陸軍の士官となっていたため、身をもって世代の規範が変化していることを知っており、ミレニアル世代やZ世代は、自分のキャリアは自分でコントロールしたいという気持ちが強くなっていることも理解していた。

 彼が認識した問題の一つについて考えてみよう。

 たとえば、海外の連合国軍へのアドバイザーとして、士官を任命する必要があったとする。従来のやり方では、適切な職位(中隊長)と専門領域(兵站〔へいたん〕)を併せ持つ候補者を洗い出し、おそらくは、業績評価をもとに上位20%に属する者に絞って、その中から任務に当たる人を選ぶことになるだろう。

 しかし、中隊長としての成功は、言わば自分とさほど違わない人たちを直接に指揮する経験においての成功である。一方で、海外でのアドバイザーとしての任務では、及ぼす影響は間接的なもので、しかもその相手は自分とはかなり異なり、環境も馴染みのないものとなる。したがって、単純に最も優秀な中隊長にこの任務を与えても、最適な任命とはならないおそれがある。

 よりよい結果を得るためには、認知的な柔軟性が高く、異文化に適応でき、対人スキルに優れた人を見つけるという方法があるだろう。どの士官が海外渡航や異文化の人たちとの出会いを好むかを軍が把握していれば、この任務に合った能力と志向を持つ人材を選ぶことができる。そして最終的には、その任務を楽しんで継続できる、優秀な人材を選べる可能性が高い。

 こうした事例に示されるような、人材を適所に配置するニーズを認識し、マコンビルは陸軍の人材採用、育成、配置、維持の手法の変革に乗り出した。そして、最初に取り組んだのが、陸軍の要となる大隊長の選抜だった。

根本からの見直し

 まず、陸軍は人材の能力を定義し直し、知識とスキル、行動、好みが交差する複数の点(KSB―P)とした。

 次に、マコンビルは、革新的な人材管理手法の試行を任務とする小規模なグループ「陸軍人材管理タスクフォース」に資金を提供し、活性化して、インクルージョン(多様な人々を組織に受け入れること)を活動の中核に据えるよう指示した(筆者はこのタスクフォースの外部アドバイザーであり、新たな選抜プロセスでは、面接委員団のモデレーターも務めた)。

 タスクフォースは軍のリーダーシップ理論を調べ、政府や企業、学術組織や非営利団体、連合国軍などからベストプラクティスを探した。そして、「大隊長アセスメントプログラム」(BCAP)を設計した。

 BCAPでは4日間かけて、大隊長候補者のコミュニケーション能力やクリエイティビティ、倫理的リーダーシップ、他者を育成する力など、20以上のKSB―Pについて評価を行う。最初の3日間で、候補者は体力テストやライティングスキル、論理的な小論文の試験、認知力と戦略力の評価、心理テスト、心理学の専門家による面接などを受ける。また、屋外に障害物が設けられたコースで、チーム活動でのリーダーシップと問題解決能力を評価され、さらには、同僚や部下による評価も検証される。

 BCAPの山場となるのが、4日目に実施される30分間の面接である。面接では面接委員たちが候補者の口頭でのコミュニケーションスキルを評価するとともに、大隊長の任務に就けるかどうかを判断する。任務に就けると判断された人たちは、BCAPの総合的な点数と、各人の業績資料による昔ながらの評価(陸軍はいまでも、これを選抜プロセスの重要な部分と考えている)によって順位付けされる。そして、上位450人ほどが大隊長に任命される。

 2019年の夏に2度の試行に成功した後、マコンビルはこのプログラムの全面展開を指示した。2020年1月と2月に、昔ながらの資料による評価に基づいて推薦され、自身も参加を希望した750人の中佐たちが、フォートノックス陸軍基地に集められて、新たな選考のプロセスが始まった。

バイアスを減らすための戦略

 元来、人間の脳は怠け者だ。情報を処理する時に、いつも近道を探してしまう。面接も例外ではない。研究によると、評価プロセス全体の中で、非構造化面接(あらかじめ質問が決められていない面接)は最も情報が得られない部分である場合が多いという。経験豊かな面接官でも、最初の30秒で結論を出してしまい、残りの時間はその結論を裏付けるための情報を無意識のうちに探している。

 こうした近道を通らないように、タスクフォースはBCAPの面接委員に対して、プロセスの習熟と基準の統一化、トレーニングを丸1日かけて実施した。面接では、選ばれた大佐たちがモデレーターとなって、面接のプロセスが公正で一貫したものになるようにした。そして、面接は次に説明する原則に基づいて進められた。

 ●面接委員の多様化

 選抜のプロセスは合計で4週間に及び、毎週6つの面接委員団が同時に稼働した。一つの面接委員団は、投票権を持つ委員5人と、持たない委員3人で構成され、メンバーは性別、人種、専門領域、過去の任務経験の点で多様になるよう、組み合わせが決められた。

 陸軍の伝統により、投票権を持つ委員は選抜の対象となるポジションの1つ上、あるいはそれ以上の階級に限られた。5人のうち3人が准将または少将、2人が上級大佐で、全員が大隊長および旅団長として成功した経験があった。投票権のないメンバー3人は、異なる視点を提供するために参加しており、1人は大隊長への補佐役としての経験が豊富な最上級曹長、1人は軍の上級心理学者、もう1人がモデレーターである。

 ●バイアスについての徹底的な学習

 面接委員は、面接の最中に起こりがちなバイアスを防ぐための方法を教えられた。

 たとえば、第一印象バイアス(第一印象に気を取られる)、対比バイアス(候補者を共通の基準に照らし合わせるのではなく、候補者同士を比較する)、ハロー効果やホーン効果(一つのよい特性、あるいは悪い特性に引きずられ、他のすべてが見えなくなる)、ステレオタイプ化バイアス、「私に似ている」バイアスなどである。

 トレーニングでは、リーダー間に見られる「バイアス盲点」についても強調する。これは、「他の人たちはバイアスがかかっているかもしれないが、自分は大丈夫だ」と考えてしまうことだ。面接委員は毎朝、面接を始める前に、バイアスについて再確認する時間を持った。

 ●知っている候補者を評価させない

 面接委員たちは最初の段階で候補者の名簿を渡され、候補者個人について多少なりとも知っていることはないか質問される。こうすることで、評価対象の人物について何も先入観を持っていない人だけで、面接委員団を組むことができる。

 もし、面接の途中でその候補者を知っていることに気づいたら、評価には加わらない。このケースはこれまでに5回あった。

 ●同じ土俵に立たせる

 面接を受ける人が面接経験豊富な場合、公平さが失われることがある。BCAPの試行期間中も、候補者の中佐たちの中には面接が非常に得意な人たちがいることにタスクフォースは気がついた。そこで、候補者たちには「STARメソッド」を教えた。これは、質問に答える時に、状況(situation)、任務(task)、取った行動(action)、結果(result)で答えるというものだ。このメソッドを使うよう求めはしなかったが、多くの候補者がこれを活用した。

 ●評価基準の統一

 評価基準を統一するために、面接委員には評価の対象となる項目についての指示書が渡された。指示書では、各得点に達するには何が必要か、その基準が説明されている。

 面接委員は実際の評価を始める前に、集まって模擬面接をする。まず、面接委員は各自で、3人の模擬候補者を評価する。その後、グループで結果を話し合う。続いてグループを組み直し、また別の3人の模擬候補者を評価し、グループで結果を見直す。模擬候補者の3人は、KSB―Pが優れた者1人と、中程度の者1人、劣った者が1人で構成されている。

 ●ダブルブラインド面接

 ボストン交響楽団が1952年に開発したベストプラクティスを借用して、BCAPは面接委員と候補者の間を黒いカーテンで仕切る「ダブルブラインド(二重盲)面接」を行った。こうすることで、面接委員は人種や外見、制服につけた記章などではなく、候補者の答えと、評価するKSB―Pの各点に集中することができる。候補者が目の前にいることで引き起こされるバイアスを、最小限にすることができるのだ。

 加えて、ダブルブラインド面接では、候補者と面接委員はデリケートな問題についても話すことができる。互いの顔が見えないので、将来ともに仕事をする際に影響が及ぶのを恐れる必要がなくなるからだ。さらにタスクフォースは、候補者がこれまで経験した具体的な任務や派遣場所などについて、候補者には話さないよう、また面接委員には質問しないよう指示した。

 ダブルブラインド面接によってバイアスを減らすことはできる(最上級曹長をテストしたところ、白人以外のBCAP候補者の50%を、白人だと考えた)。しかし、完全になくすことはできない。性別を判断するのは通常は簡単だし、話し方や言葉のなまり、話の内容などから、意識的にも無意識的にも、所属する人口集団を推測する可能性があるからだ。たとえば、英語が母国語でない候補者や、最南部出身の人は、言葉のなまりを認識しやすいかもしれない。そこで、バイアスを避けるために、話し方のスタイルや言葉のなまりなどによって減点、あるいは加点しないことが強調された。

 ●心理学の専門家を活用

 特殊作戦部隊が長年にわたって用いているベストプラクティスを応用し、BCAPは軍の心理学者を選抜プロセスに加えた。候補者が4日目の面接委員団との面接に臨む前に、心理学者が候補者と一対一で面接をし、この面接担当の心理学者を、6人の上級心理学者が1人当たり複数人監督した。

 上級心理学者は、自身の監督下の心理学者から候補者についてのサマリーを集め、関係する面接委員に定型のフォーマットで渡す。上級心理学者は候補者と直接には接していないので、候補者に関してより客観性のある情報提供ができる。また、上級心理学者は候補者のそれまでのBCAPの評価を、強みと弱みのサマリーにまとめる。そして、面接委員団が面接で尋ねるフォローアップの質問を提案する。

 ●明確さと公平性を確保する質問

 タスクフォースはKSB―Pの各点に関して、「どんな行動を取ったか」を尋ねる行動ベースの質問集を開発した。面接委員は問題が漏れる可能性を考慮して、その中からローテーションで質問をする。たとえば、「あなたの部下が直面している大きな課題について、アドバイスした時のことを話してください」などの質問である。

 面接の最初の部分では、モデレーターが質問集の中から決まった順番で質問をする。面接の核となる部分で、候補者ごとに問う内容に違いが生じないようにするためだ。続いて、面接委員からの質問をモデレーターが尋ねる。面接委員はそれまでの3日間の成績を見て、また上級心理学者からの説明を聞いたうえで質問を考える。面接委員自身も、候補者の強みやリスクを明らかにするために、追加で質問をすることができる。

 面接委員たちは、具体的な状況についての説明や、そこで取った行動を候補者から聞き出すよう求められ、仮定的な質問を避けるよう指示された。たとえば、「働きぶりが芳しくない部下がいた場合、あなたであればどう対処するでしょうか」とは尋ねず、「最近、働きぶりが劣る部下を育成した時のことを話してください」と質問する。

 候補者は30秒間待ってから質問に答えるよう求められた。この指示は、心理学者が認識していたある性格特性を考慮してのことだ。外交的な人は声に出して話しながら考えることができるが、内向的な人は沈黙して情報を処理する傾向がある。この30秒は、外交的な人が有利になるという不公平が生じないようにするためのものだ。

 さらに公平さを確保するために、面接委員は候補者の答えに対するフィードバックや議論をしないよう指示された。また、親指を上げる、あきれたような目つきをするなどのボディランゲージによって、好意的、否定的などの見方を他の面接委員に伝えることも慎むよう指示された。

 ●部下になる可能性のある人に聞く

 グーグルでは、採用候補者のチームメンバーになる可能性がある人を面接のプロセスに加えているが、このベストプラクティスを応用して、面接委員団には最上級曹長を加えた。最上級曹長は、言わば上級現場監督といった立場の人物である。

 参加を求められる最上級曹長は、大隊長や中隊長の補佐役としての経験があり、大隊長の職務に何が求められるかをよく理解している。面談が一つ終わるたびに、最上級曹長はKSB―Pの各点に関して、候補者の弱みと強みについての見解を述べる。直近バイアス(直近の事象に引きずられること)を最小化するために、候補者についての総合的な評価はしないよう指示された。

 ●異常な投票の発見と阻止

 最上級曹長の意見を聞いた後、面接委員はKSB―Pの各点に関して仮投票を行う。その結果は、モデレーターだけが見ることができる。2人の面接委員の意見が大きく異なった場合、モデレーターは両者に対して、実際のスコアを明かすことなく評価の根拠を聞く。2人のうちの上位の階級の者が不適切な影響を及ぼさないように、階級が下位のほうから話をする。

 ●投票結果は伏せておく

 続いて、面接委員は正式な投票をする。モデレーターは、指示書に基づいて評価をするよう念を押し、自分の投票結果を公表したり、候補者について話し合ったりしないように求める。面接委員は、投票する際に候補者のKSB―Pの各点に関する強みと弱みも提出する。この評価は心理学者に渡され、心理学者は候補者に簡単な結果報告をする。

 ●面接委員団のモニタリング

 面接委員団の間で一貫性と公平性を保つよう、BCAPのディレクターである将官がモデレーターたちと毎日ミーティングし、指示を与え、問題やニーズ、投票の傾向などについて聞いた。このディレクターは毎日、面接委員団ごとに最低でも1つの面接を、有線カメラシステムを通じて傍聴した。面接委員がプロセスに関する問題で論争していると、時には、部屋に入ってアドバイスをすることもあった。

 6人のモデレーターとディレクター、委員団のコーディネーターは、頻繁にコミュニケーションを取り、問題点や懸念点、ベストプラクティスなどをリアルタイムで共有した。面接委員はディレクターに傍聴を依頼したり、プロセス上の問題を解決するため、面接の前後に来てくれるよう頼んだりすることができる。こうした要請には通常は素早く、数秒のうちに対応した。

重要な関係者を巻き込む

 組織変革の専門家であるジョン・コッターは、変革を実行する際の重要なステップの一つとして、変革を導く連合グループの形成を挙げた。BCAPでは候補者に関係する重要なグループ、たとえば候補者の同僚や、曹長などの部下、将官らに意見や参加を求めた。

 ●同僚や部下へのアンケート

 フォートノックス陸軍基地での評価プロセスの前に、候補者の同僚や部下に対して10分間アンケートがメールで送られた。その中でも重要な質問は、「この人物は大隊の指揮権を与えられるべきか」というものだった。アンケートを受け取った人たちの65%以上が回答した(陸軍のアンケートの回答率は、通常15%を下回る)。

 面接委員がアンケート結果を見るに当たってアドバイスされたのは、リーダーは時には厳しくあらねばならず、否定的なフィードバックは全体的な状況の中で考えるべきだということだ。つまり、回答の多くが候補者に好意的なのであれば、一つ二つの項目に関する否定的な回答は、例外的なものと見なすべきということである。

 候補者の同僚や部下の大多数が、候補者の大多数を大隊長に推薦した。つまり、中佐たちの大半はリーダーとして優秀だったということだ。ただし、そうではなかった者もいた。それでも、このアンケートは評価プロセスで検討されるさまざまな要素の一つでしかないので、アンケートの結果にかかわらず、候補者はBCAPのプロセスを完了した。

 ●リーダーの関与

 陸軍の現在の将官は、以前の選抜プロセスを経て昇進してきた。したがって、彼らから今回のプロセスへの賛同を得るには、慎重に取り組む必要があった。マコンビルは陸軍の12人の大将に対して、候補者の最終得点を算出した評価方法を重視するよう依頼した。そうすることによって、上層部がこのプログラムを支持しており、他の人たちも同様にすべきだということを示そうとしたのである。

 前述したように、一つの面接委員団には少将または准将が3人配置された。面接のプロセスは4週間で、1週間に6つの面接団が組織されたため、面接団は合計で24となり、これに参加した少将、または准将は72人となった。つまり、全体の20%以上が参加したことになる。

今回の成果と未来への展望

 BCAPには、交通費や備品、設備などに250万ドルの費用がかかった。また、参加者が使った時間に相当する機会コストもかかっている。では、そのリターンとして、陸軍は何を得るのだろうか。

 最も直接的な影響を受けるのは、新たに選ばれた大隊長436人に率いられる兵士たちだろう。436人のうち150人、率にして34%は、従来の資料評価だけのやり方では選ばれなかった人たちだ。彼らは資料による得点では上位に入らなかったが、BCAPで評価された強みが彼らを押し上げた。さらには、従来のやり方であれば大隊長に選ばれていたはずの25人が、面接委員団により「まだ大隊長にはなれない」と判断された。その多くに、「有害な」リーダーである強力な証拠が見られた。

 将来の将官は、主に今日の大隊長たちから選ばれる。したがって、究極的には何万人もの兵士たち(およびその家族)が、新たな大隊長、つまり、より体力や能力があり、コミュニケーションに優れ、思いやりのある大隊長の恩恵を被ることになる(なお、陸軍は一般的に、選抜された人たちの人口統計的データを公表しない)。

 この選抜プロセスは、大隊長に選ばれたか否かにかかわらず、候補者にもメリットがあった。フォートノックスで過ごした1週間で、彼らは昔の仲間と再会し、新たな知り合いをつくった。ネットワーク理論や社会心理学でいわれるように、職業上の強力なネットワークは物事を成し遂げる力を高め、個人的なネットワークは感情的な安定と幸福感を高める。

 さらに、すべての候補者(選抜されなかった人も含む)は、民間のエグゼクティブコーチによるリーダーシップ開発の機会を提供され、選抜プロセスで見つかった問題点や、自分が認識している欠点に取り組むことができる。候補者のかなりの人たち、男性候補者では64%、女性候補者では84%がこのコーチングへの登録を申し出た。

 プロセス終了時のアンケートでは、候補者全体の96%、女性では98%、マイノリティでは96%が、BCAPは指揮官の選抜方法として、以前のものよりも優れていると答えた。実施から2カ月後、候補者が結果を知った後のアンケートでも、97%がこのプログラムを継続すべきだと答えた。

 一方で、11%ほどが大きな修正を求めた。たとえば、フィードバックの拡大、評価基準や実施方法の変更、スケジュールの変更などだ。これらの点については分析され、今後に向けて対応していくことになる。

 終了時や終了後のアンケートでは、予測していなかった効果も明らかになった。面接委員の成長である。

 当初、将官の中には、自分が選抜されたシステムを変革するために、なぜ貴重な時間を使わなければならないのかと疑問に思った人もいた。しかし、最終的には面接委員の95%が、大隊長を選ぶ制度としては、今回のほうが優れていると思うと答えた。なかには、若いリーダーが直面する問題について認識を新たにできたと、感謝する人たちもいた。将官の多くが、自身のリーダーとしての行動について内省し、面接のためのトレーニングではバイアスに気づかされ、よりインクルージョンに配慮したリーダーシップを執る必要があると気づいたと答えた。

 加えて、BCAPのプロセスでは、面接官についての重要な情報も得られた。今回のプロセスでは、各候補者への投票をすべて記録した。数年経てば、誰が大隊長として成功しているかが見えてくるので、そこから、誰が評価者として特に優秀なのかも見えてくる。その人たちを他の選抜委員会に招いて、仕事をしてもらうことが考えられる。

 さらには、フォートノックスに来た人たち以外にも影響が及んでいる。陸軍ではBCAPによって、より幅広い評価とフィードバックを開発できる可能性に目が向けられるようになった。ウェストポイントでは、士官候補生への指導に使うため、ライティングの指示書が用いられるようになった。また、少なくとも一つの陸軍組織が模擬BCAPを立ち上げつつある。将来の候補者が、体力やライティング、口頭でのコミュニケーションスキルを向上できるようにするためだ。

 陸軍では、4~5年の経験を持つ士官の育成に、BCAPの評価方法を活用することを検討している。同じ評価をさらに何年か後にも実施すれば、士官は自身がどのくらい成長したか(しなかったか)を確認することができる。またどちらの時点でも、評価を実施することによって、その人に合った任務や育成プログラムを提供できる。評価で重視されるスキルを士官が練習することにより、彼らの能力は伸びて、大隊長に選ばれることのない人たちの間でも、より優れたリーダーが育成されることになる。

 そして、陸軍は旅団レベルの指揮官を選抜するプログラムを設計するために、BCAPをひな型として用いている。また、人材管理タスクフォースは、BCAPのインクルージョン向上の取り組みをベースとして、多様性とインクルージョンのイニシアティブを正式に立ち上げ、さまざまなプログラムに拡大している。

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 BCAPによって、史上最も念入りに選ばれた大隊長の一群が陸軍に誕生した。候補者たちは、BCAPで貴重な視点を得て、自分自身についても多くを学んだと言う。同僚や上司を評価するよう依頼された兵士たちは、彼らの意見は重要であり、リーダーは彼らに敬意をもって接すべきだという、明確なメッセージを受け取った。

 面接委員となった将官や大佐たちは、下位の士官が日々の任務で何を経験し、それにうまく対応するためにはどんなスキルが必要かについて、認識を新たにすることができた。面接委員の多くが、これまで受けた中で最も充実したバイアス排除のトレーニングを受けた。これによって、彼ら自身がリーダーとして行動する時に、さらにインクルージョンに配慮した対応ができるようになるはずだ。


東方雅美/訳
(HBR 2020年11-12月号より、DHBR 2021年2月号より)
Reinventing the Leader Selection Process
(C)2020 Harvard Business School Publishing Corporation.

ILLUSTRATION: Klawe Rzeczy

エベレット・スペイン(Everett Spain)
現役の大佐で、米国陸軍士官学校(通称:ウェストポイント)の行動科学およびリーダーシップ部門の責任者。なお、本稿で示した見解は筆者個人のものであり、米国陸軍士官学校や陸軍、国防総省の見解を代表するものではない。