歴史を振り返っても、大きな危機は変革をドライブしてきた。その意味で、日本はいままさに変革のチャンスを迎えているといえる。この好機をとらえ、大胆な企業変革を実践するために、経営者やチェンジリーダーに求められているものは何か。「変革創出企業」として発足してから2年目を迎える、Ridgelinezの今井俊哉CEOに聞いた。

なぜ日本企業のDXは進まないのか

──経済産業省が2020年12月に公表した、デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速に向けた研究会の中間報告書「DXレポート2(中間とりまとめ)」によると、いまだ9割以上の企業が、DXに「未着手」あるいは「一部での実施」に留まることが明らかになりました。

 率直な感想を申し上げると、経営者やCXOの危機感の欠如を感じます。なぜ変革しなければならないのか、何を変革すればいいのかが明確になっていないのではないでしょうか。

 変革は経営トップやチェンジリーダーが一人でやれるものではありません。組織のメンバーがフラットにコミュニケーションしながら、一人ひとりが変革の必然性を理解、共有し、自分事として取り組まなくては変革を成し遂げることはできません。経営者は、なぜ変革するのか、何を変えるのかをはっきりと伝えて、社内を説得し、実行を促していく強い意志が必要です。

「DXはまず、スモールスタートで始めてみよう」とよく言われますが、現場はともかく経営者までがそういうスタンスで臨むのはいかがなものかと思います。スモールスタートだと、うまくいかなければいつ止めてもいいとも受け取れるので、本気で何かを変えようという覚悟が伝わらないからです。

 経営者やCxOクラスの責任者が、自分の言葉で、自分の意思で何かを変えようとする時に、周囲のスタッフや部下がつくった作文を読み上げているようではいけません。本人の言葉で、魂を込めて語りかけることが大事です。

Ridgelinez
代表取締役CEO
今井俊哉
TOSHIYA IMAI
富士通を経て、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンに14年在職。その後、SAPジャパンのバイスプレジデント、ベイン・アンド・カンパニーのパートナー、ブーズ・アンド・カンパニー代表取締役、PwCコンサルティング副代表執行役を経て、2020年4月より現職。

 多くの日本企業がDXにチャレンジしながらも、志半ばで断念している理由は主に3つ挙げられます。

 第1にDX自体が目的化し、戦略性が希薄なこと。第2にデジタルツールありきで話が進んでしまい、ツールを導入した時点で満足してしまうなど、技術者起点・供給者視点が強すぎること。そして第3に、プロジェクト開始前からビジネスへの素早い実装と活⽤を織り込んだ設計思想、ソリューションの開発・選択になっていないことです。実装に2年も3年もかかってしまうようでは、時代の変化に取り残されてしまいます。

 これらの問題に対する処方箋は、まず明確な戦略を持つことです。DXは目的ではなくて、テクノロジーは単なる手段に過ぎません。その企業にとって本質的な課題を特定し、ビジネスモデルを再定義することが重要です。

 次に、技術者起点・供給者視点ではなく、あくまで実際に使う利用者の視点で提供価値を考え、必要なソリューションを選択することです。そして、当初からビジネスへの実装と活用ありきで、実現方法を複数の道筋で検討すべきです。

──オーナー企業では経営者の強力なリーダーシップの下、DXを推進している例が見られますが、オーナー経営ではない多くの日本企業は、どのようにして危機意識を内在化し、みずから変革をドライブしていけばいいのでしょうか。

 組織全体に危機感を植え付けることや、変革の必然性を示すことは、ほかならぬ経営者の仕事です。経営者は世の中の動きに対して臆病なほどにセンシティブであるべきですが、そこに留まるのではなく、危機に対して自分たちなりの解決の仮説を示し、「こう変えたい」というメッセージを発信していかなくてはなりません。

 それをサラリーマン社長だからできないと言ってしまっては、経営者たる資格がありません。一般的に言って、日本のサラリーマン社長は、そうした意識が欧米企業に比べて希薄であることは認めざるを得ません。

 2021年春に予定されているコーポレートガバナンス・コードの改訂では、取締役会の3分の1以上を独立社外取締役とすること、中核人材の多様性を確保することなどが検討されています。より高いガバナンス水準が求められる中で、生え抜きの経営者であろうと、外部から招へいされたCEOであろうと、変革を実行し企業価値を持続的に高めていかないと、取締役会や株主からレッドカードを突き付けられることになるでしょう。