産業技術総合研究所では、AIを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)を目的に、200を超える民間企業が参画する人工知能技術コンソーシアムを主宰している。テーマごとに企業が主導する約20のワーキンググループを通じて、さまざまな研究と実証実験を行い、広範なユースケースを生み出している。同研究所の人工知能研究センター首席研究員でコンソーシアムの会長を務める本村陽一氏に、AIの社会実装における課題と、その解決策について聞いた。

収集したデータからいかに価値を生み出すか

──産業技術総合研究所(産総研)の人工知能技術コンソーシアム(AITeC)では、法人会員が複数のワーキンググループをつくり、AIを使ったビジネス変革や社会変革の研究、実証実験などを行っているとうかがっています。AIをいかに社会実装していくかは、日本の成長戦略上の課題の一つですが、多くの企業も同様の課題感を持っています。まずは、AITeC設立の経緯から教えていただけますか。

本村 産総研に人工知能研究センターが設立された2015年5月に、同時設立されました。当初の設立目的は、(政府が目指すデジタル化が進んだ社会像)「Society5.0」の実現に向けて、「実社会ビッグデータ」を収集・整理することにありました。

 Society5.0に掲げられている現実(フィジカル)空間と仮想(サイバー)空間を高度に融合させたサイバーフィジカルシステムを実現するには、工場や病院、学校といった実社会のビッグデータを大量に集め、AIに読み込ませることが必要です。

産業技術総合研究所
人工知能研究センター 首席研究員
人工知能技術コンソーシアム 会長
本村陽一
Yoichi Motomura 1993年通産省(現経済産業省)工業技術院電子技術総合研究所入所、2001年より産業技術総合研究所所属。サービス工学研究センター大規模データモデリング研究チーム長、同副研究センター長などを経て、2015年人工知能研究センター副研究センター長および人工知能技術コンソーシアム会長、2016年より首席研究員兼確率モデリング研究チーム長。東京工業大学大学院特定教授、神戸大学客員教授を兼務。

 しかし、実社会のデータはあらかじめ整備されているものが極めて少なく、広範囲にわたるデータを産総研だけで収集することはできません。そこで、コンソーシアムを設立してさまざまな業種の企業に参加を募り、まずは実社会ビッグデータを効率よく収集・整理する方法を研究することから活動を開始しました。

 現在では各ワーキンググループが多岐にわたるAI活用の研究を行っていますが、当初はAIを使って、いかに効率よく、質の高いデータを収集するかというのが主な活動テーマでした。

──その後、研究はどのように発展していったのでしょうか。

本村 データを集めるのは、あくまでもAI活用のための前準備にすぎません。集まったデータから、いかに価値を生み出すのかということが重要です。AITeCは、設立当初からデータ収集・整理はあくまでも活動の第1段階ととらえており、具体的な価値の創出に向けて活動を徐々に発展させてきました。

 これはDX(デジタルトランスフォーメーション)についても言えることですが、真に重要なのはデジタル技術を導入することではなく、それによってどんな価値を生み出すのかということです。AITeCでは、この技術導入から価値創造に至るまでのステップを「守・破・離」の3段階に分けて考えています。