「根拠ある熱狂」に変えるのが金融の役割
――新しい社会においては、金融機能への要請も変化していくのですから、まさに金融機能の再定義が必要だと言えます。どのように再定義されるべきなのか。お2人の提言を聞かせてください。
佐々木 金融機関のパーパスにおいて、社会全体、日本全体の課題解決への貢献が重要になる中で、おのずとその機能も変わらざるをえなくなっています。
既存の金融機関だけでなく、さまざまな事業法人がプレーヤーとして参加するようになり、また、ESG投資やサステナブル投資などが拡大する動きに合わせて、金融監督当局はそれらを規制するだけでなく、社会課題解決のために金融機能を発展させる役割を担っていかなければなりません。
一方、金融機関にとっても、今後は社会課題の解決に資するサービスを提供することがビジネスチャンスとなり、提供できなければ、むしろリスクを抱えることになるでしょう。課題をチャンスととらえて、果敢に挑むべきだと思います。
松江 社会全体や日本全体の課題を解決するためには、金融だけでなく、産・官・学・金・民が同じ方向を向き、その取り組みを支え、お金を流すことが、金融の新たな機能であり、役割となるはずです。
数ある成長ドライバーのうち、ESGを採り上げた場合、世界のESG投資額は2020年で約3900兆円(35.3兆ドル)にも上り、今後も大きな伸びが予想されています。日本でも投資額は伸びてきていますが、今後はさらに家計を含む民間からより多くの資金を取り込む魅力的な仕組みを開発するといった新たな取り組みも必要でしょう。
たとえば、国内で貯蓄に回っている資金を、社会的な必要性が高い脱炭素への投資に回せるようなグリーンボンドをはじめ、サステナブルファイナンスのあり方も重要です。時代の要請に即した金融機能を提供できれば、金融機関であっても、事業法人であっても、ビジネスチャンスは必ず広がります。
冒頭、グリーンスパン元FRB議長の「根拠なき熱狂」という言葉を引き合いに出しましたが、社会全体、日本全体の課題解決に結び付く投資なら、それは「根拠ある熱狂」に変わるはずです。

――今回は、実態経済と資本市場の乖離、それを複雑化させている金融と非金融の境界のあいまいさ、経済価値と社会価値の時間軸のギャップを軸に議論してきました。
これらが生じさせる不確実性やリスクに対処するためには、社会全体を勘案したパーパスの設定、金融機能の再定義が必要であるとご意見をいただきました。また、企業がパーパスを見据えた経営に取り組み、さらなる成長に向けたリスクテイクをすることで、ピンチをチャンスに変えることができるとの提言もいただきました。
これらの提言がステークホルダーの方々を後押しし、新たな時代でも重要な役割を果たされ、また成長のチャンスをつかまれることを期待して、対談を終了したいと思います。