小売業全体の売上げは実は伸びているが……
ニューヨーカーは口を揃える──タイムズスクエアは悪夢だ。スパイダーマンの格好をした物乞いや裸のカウボーイに会うくらいなら、私は3ブロック遠回りする。スウォッチも、ハーシーの5ポンド(2.25キログラム)で60ドルのキャンディバーもほしくない。新年のカウントダウンでボールドロップ[注1]を見るために、何時間も凍えながら立っていたら、私の意識が先に落ちるだろう。
しかし、2020年4月、私とタイムズスクエアの関係は変わった。霧雨に包まれたブロードウェイ42丁目に、私は一人立ち尽くしていた。すべての店がシャッターを下ろし、すべての劇場が扉を閉じ、誰一人歩いていなかった。
3万2000軒以上の店舗と21万4000人の小売店従業員を擁する私の街が、破滅の危機に瀕していた。デロイトのリポートによると全米で小売業の売上げが激減し、衣料品店(2020年2月から4月にかけて89%減)と百貨店(45%減)が特に打撃を受けた。ブルックスブラザーズ、Jクルー、ニーマン・マーカス、ピア1など、実店舗を中心とする有力ブランドが同年内に破産法の適用を申請した。