新たな経営トップに
求められる条件
筆者ら2人が初めて会ったのは2009年4月だった。当時は世界金融危機の最中で、マスターカードは新たなCEOを探していた。筆者の一人(リック〈リチャード〉)は取締役会会長として人材探しの先頭に立っており、もう一人(アジェイ)はシティグループの経営陣に名を連ね、当社の将来のCEO候補として名前が挙がっていた。英国のサセックスにあるリックの別荘は、周辺にブルーベルがちょうど咲き誇り始めていた。
この最初の会合の目的は、アジェイがマスターカードに合う人物かどうか、そして当社がアジェイに合うかどうかを見極めることだった。あいさつもそこそこに戦略的な話し合いを始めた。今後2年、5年、10年、20年で当社およびクレジットカード業界はどうなりそうなのか、成功するために企業文化、人材、そして経営チームをどう育てる必要があるのか、について話し合った。
もちろん、中心テーマは間近に迫ったCEOの後継者問題だったのだが、読者に信じてもらえるかどうかは別にして、その次のステップについても話し合った。つまり、アジェイがCEOを引き継ぐ前から、彼の後任をどうするかについて考え始めていたのであり、後任は必ずしも外部の人間でなくてもよいという意思を筆者らは確認し合った。このように将来を見据えた話し合いまでできたのは、わずか数時間の会話を通じて、筆者らがうまくやっていけることがわかったからだ。