サービスのデジタルシフトやコロナ禍による消費行動の変化などによって、企業と顧客の関係性は大きく変化している。そうしたなか、顧客の成功に寄り添い続ける「カスタマーサクセス」が関係性づくりの新たなアプローチとして注目されているが、具体的にどう戦略を立て、施策を打てばいいのか悩んでいる企業も多い。そこで、サービスデザインを専門とする慶應義塾大学経済学部の武山政直教授に、解決のヒントを聞いた。
なぜカスタマーサクセスが求められているのか
「カスタマーサクセス」とは、文字通り、「顧客の成功」を支援するための取り組みだ。
かつての営業活動は、モノやサービスをいかに売るかが勝負で、顧客との関係性も、売ってしまえば終わりというのが一般的だった。アフターサービスやカスタマーサポートという形で関係性こそ継続するが、あくまでもフォローアップにすぎず、「買ったモノやサービスを使い続け、成功体験を得てもらう」というカスタマーサクセスの考え方とはほど遠いものであった。
今日、カスタマーサクセスが重視されるようになったのは、従来の「売り切り型モデル」から、SaaSをはじめとする従量課金型サービスやサブスクリプションモデルのように、「継続的に自社製品を使ってもらうこと」を前提とするモノやサービスの販売モデルへの転換が進んだからだ。

武山政直教授
「より広い視野で見ると、顧客がモノやサービスを手段として利用する時代から、それを活かしてどのような成果や体験を得るかということを重視する時代へと転換したことが、カスタマーサクセスの必要性に結び付いていると考えられます」(武山政直教授)
顧客が成功を求める背景には、デジタルテクノロジーの急速な進化と、それを応用したデジタルサービスの多様化がある、と武山教授は分析する。
「たとえば法人顧客の場合、SaaSやクラウドに代表される複数のサービスを組み合わせることで、多様な施策を実施し、よりよい成果が上げられるようになります。成功の可能性が広がったからこそ、より大きな成功を求める傾向が強まったのだといえます」
一方で個人顧客(消費者)も、「モノからコトへ」という価値観のシフトとともに、購入したモノやサービスを使うことで、どのような成功体験が得られるのかを追求し続けるようになった。
こうした変化に対応して、企業側も常に消費者とのつながりを保ち、新しい提案や情報発信を続ける必要性が生まれたのだ。
すでに、企業がカスタマーサクセスに取り組むことは当たり前になりつつあるが、その重要性や必要性は認識しつつも、具体的にどのような戦略を立て、施策を打てばいいのかがわからず、悩んでいる企業も少なくない。