「価値提供から価値共創へ」顧客とともに
成果を創る
そうした企業に対し、武山教授は「アプローチの前提として、まず『価値提供から価値共創へ』という発想の転換を行うことが重要だと思います(図表参照)。企業側から一方的に働きかけるのではなく、顧客と一緒になって成功をつくり上げていくような関係性と取り組みが求められているのです」とアドバイスする。
その際、モノやサービスを提供する企業は“伴走役”に徹するのが望ましいと武山教授は考える。
「成功を手に入れる」主体はあくまで顧客であり、企業ができるのは、それをサポートすることに限られるからだ。「顧客が『何をゴールにしているか』を見極め、どうアプローチすればたどり着けるのかというロードマップを共有したうえで、要所ごとに継続的な支援やアドバイスを提供するのが、理想的なカスタマーサクセスだと思います」。
カスタマーサクセスの効果を検証するうえでも、「顧客視点でKPI(重要業績評価指標)やKGI(重要目標達成指標)を設定するのが望ましい」と武山教授は提言する。
また、「提供した支援やアドバイスによって、顧客が何を発見し、能力や満足度がどれだけ高まったのかという変化を時系列で評価できる指標を設定するのが理想的といえます」と続ける。
こうした変化を探るためには、あらゆるチャネルやタッチポイントから顧客の行動や意識に関するデータを収集し、多面的に分析することが欠かせない。効果的なカスタマーサクセスを達成できるかどうかは、データ活用の巧拙にかかっているといっても過言ではないだろう。
武山教授は、「一般にカスタマーサクセスでは、LTV(ライフタイムバリュー)の最大化を目標とすることが多いようですが、顧客と長いお付き合いを維持するためには、なおさら積極的なデータ活用が求められるのではないでしょうか。詳細なデータ分析によって顧客の変化を事細かく、速やかに発見することができれば、より柔軟かつダイナミックに施策を打てるようになるはずです」と語る。
データドリブンかつパーパスドリブンな実践を
また武山教授は、カスタマーサクセスの目標について、「LTVという狭い範疇ではなく、もっと広い枠でとらえるべきではないでしょうか」ともアドバイスする。
というのも、時代のめまぐるしい変化とともに、顧客の意識変化や行動変容も加速しているからだ。
また、「単一のモノやサービスのLTVだけに着目していると、ニーズの変化を見逃し、顧客との関係性をみすみす失ってしまうおそれがあります。変化に合わせて支援やアドバイスの切り口を変え、場合によっては新しいモノやサービスを提案するといった柔軟な対応が求められるのです」とも提言する。
武山教授によると、顧客の意識変化や行動変容のスピードは、コロナ禍によって一気に加速したという。
「チェンジ(変化)を前提とした顧客との関係性をいかにつくり上げていくかが、カスタマーサクセスの成否を分けるのではないかと考えます」
特にコロナ禍以降は、世の中のサステナビリティへの関心が以前にも増して高まっている。
「今後は企業としてサステナビリティにどう向き合っているのかということも、カスタマーサクセスへの評価に大きく影響してくることでしょう。『自分たちは何を目指してモノやサービスを提供し、顧客の成功を支援するのか』というミッションやパーパスを明確にし、それを踏まえながら支援を行うことが求められるようになるはずです」と武山教授は見る。
データドリブンであると同時に、パーパスドリブンなカスタマーサクセスの実践が求められているようだ。