企業としての価値観とガバナンスは
パーパスの実現に向けた経営の両輪

 タケダは、クリストフ・ウェバー氏が2014年6月に代表取締役社長に就任、2015年4月からCEOを兼務して以降、真にグローバルなバイオ医薬品のリーディングカンパニーを目指して、先駆的なガバナンス改革と経営改革に取り組んできた。

 その歩みを簡単に紹介すると、2016年に監査等委員会設置会社に移行、独立した立場から経営陣と取締役に対する実効性の高い監督を行い、またステークホルダーの意見を取締役会の議論に適切に反映することなどを目的に独立社外取締役の人数を増やし、多様性を高めてきた。

 2017年度は経営の執行と監督をより明確に分離するために、独立社外取締役の坂根正弘氏(元小松製作所社長)が取締役会議長に就任。2018年12月には、Shire(シャイアー)社の買収を契機としてニューヨーク証券取引所への上場を果たし、独立社外取締役の人数を増員してガバナンス体制をさらに強化した。

 そして、2019年度からは指名委員会と報酬委員会を、2021年度からは監査等委員会を、各委員長を含め独立社外取締役のみで構成することとし、各委員会の独立性を実質的に高めるとともに、統治機能のさらなる充実を図ってきた。

 現在、タケダの取締役16人のうち4分の3を占める12人は独立社外取締役であり、その水準は改訂CGコードがプライム市場上場会社に求める3分の1を大きく上回っている。ちなみに、東証が2021年8月に公表した調査資料(「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」)によると、3分の1以上の独立社外取締役を選任しているのは1部上場会社の72.8%に達するが、独立社外取締役が過半数を占めるのはわずか7.7%にすぎない(2021年7月時点)。

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 自社の戦略に照らし合わせて必要な知識、経験、能力を持った社外取締役を選任するのは容易なことではなく、多くの企業はその点に難しさを感じている。改訂CGコードでは、取締役会全体として備えるべきスキルを特定し、各取締役が持つスキルを一覧表としてまとめたスキルマトリックスを開示すべきとしており、タケダも2021年12月にスキルマトリックスを公表した。

 それを見ると、グローバルなバイオ医薬品のリーディングカンパニーとして、「グローバル経営&戦略」「コーポレートガバナンス、サステナビリティ」「マネジメント、リーダーシップ、人材育成」「サイエンス&医薬」「ヘルスケア業界」に加え、「データ&デジタル」なども備えるべきスキルと特定し、そうした知識や経験を持つ人材を取締役に選任していることがわかる。

 また、多様な取締役が取締役会や監査等委員会、指名委員会、報酬委員会に参画し、客観的かつ建設的な議論をどのように進めているのかを示すため、タケダはこれらの会議体の運営ルール(規程)を2021年11月に公表した。規制で求められる以上の情報開示を積極的に進め、コーポレートガバナンスに透明性を追求する点もタケダの特徴であろう。

 タケダが他社に先駆けて高度なガバナンスモデルを構築してきた理由は、CGコードへの対応という受動的なものではない。同社のウェバー社長兼CEOは、「私はタケダのバリュー(価値観)とベスト・イン・クラスのガバナンスを大切にしており、これらの2つを合わせることで、当社は、今日のような『誠実』を価値観の中心に置くグローバルな研究開発型のバイオ医薬品のリーディングカンパニーになることができました」と語っている。

 すなわち、タケダのバリュー(価値観)をもとに事業を発展させるための基盤として、高度なガバナンスモデル構築に能動的に取り組んできたのである。その結果、CGコードの改訂内容にも多くの点でスムーズに対応することができた。

 タケダのバリューは、「誠実:公正・正直・不屈」という1781年の創業当初から240年もの長きにわたり受け継がれているタケダイズムと、倫理的行動を支える4段階の要素(Patient、Trust、Reputation、Business)から成っている。

 このバリュー(価値観)は、「世界中の人々の健康と、輝かしい未来に貢献する」という同社のパーパス(存在意義)の実現に向けた羅針盤ともなっている。すなわち、取締役会や経営の執行を委任されているタケダ・エグゼクティブ・チーム(TET)、さらにはタケダの世界中の事業拠点や工場、研究所などでこれを道標とし、患者さんに寄り添い(Patient)、社会との信頼関係を構築し(Trust)、社会的評価を向上させ(Reputation)、事業を発展させる(Business)ことを日々の行動指針としている。

 このように、企業としての価値観とガバナンスはパーパス(存在意義)の実現に向けた経営の両輪であり、組織文化として浸透した価値観や実現したい未来像があってこそ、あるべきガバナンスモデルを描き、能動的に構築していくことができるといえるだろう。

 裏を返せば、目の前のCGコード改訂への対応だけに目を奪われていると、自社の経営戦略の実行を支える、高度で実効性のあるガバナンスモデルを構築することは難しいともいえる。そこで次ページでは、コーポレートガバナンスの戦略的意義について、PwCコンサルティング合同会社の愛場悠介パートナーに聞く。