2021年6月、東京証券取引所(東証)は2度目の改訂となるコーポレートガバナンス・コードを公表、施行した。これは2022年4月の東証の市場区分再編とも密接に関係しており、より高いガバナンス水準を求められる最上位のプライム市場上場会社では、ガバナンス改革を急ぐ動きが見られる。
グローバルの投資家との対話を見据え、上場会社が実現すべきガバナンス水準とはどのようなものなのか。そして、どのようにしてその水準を達成すればいいのか。本稿では、研究開発型のバイオ医薬品のリーディングカンパニーとして、グローバル水準のガバナンスモデルをすでに構築している武田薬品工業をモデルケースとしながら考察する。
CGコード改訂の3つのポイントは、
取締役会機能、多様性、サステナビリティ
我が国で2015年に初めて導入されたコーポレートガバナンス・コード(CGコード)は、2018年に次いで今回が2度目の改訂となる。今回の改訂においては、世界的に注目が高まっているサステナビリティ(ESG<環境、社会、ガバナンス>要素を含む中長期的な持続可能性)をめぐる課題への対応も主要な論点となり、CGコードの原則に盛り込まれた。
また、東京証券取引所は、市場第1部・2部、マザーズ、JASDAQの4つに分かれていた市場区分を2022年4月4日から、「プライム」「スタンダード」「グロース」の3つに再編する。CGコード改訂は、この市場再編とも密接に関係している。
東証は、上場会社に持続的な企業価値向上の動機付けを行うことを市場再編の目的としており、グローバルの機関投資家の投資対象となりうる最上位のプライム市場上場会社は、より高いガバナンス水準を求められる。
今回のCGコード改訂のポイントは、大きく3つ挙げられる。それは、(1)取締役会の機能発揮、(2)企業の中核人材における多様性の確保、(3)サステナビリティをめぐる課題への取り組み、である。
具体的には、プライム市場上場会社を対象とする原則として、(1)について、社外取締役を全取締役の3分の1以上選任すること、指名委員会・報酬委員会の構成員の過半数を独立社外取締役とし、独立性の考え方・権限・役割などを開示することが新たに加えられた。
改訂CGコードは積極的な情報開示も求めており、(2)については全上場会社が、中核人材における多様性の確保(女性・外国人・中途採用者の管理職への登用など)についての考え方と測定可能な目標設定および開示を求められた。そして、(3)についてプライム市場上場会社は、気候変動リスクおよび収益機会の分析を行い、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)またはそれと同等の枠組みに基づく開示を進めるべきという新原則に対応することが必要になった。
こうした改訂ポイントに対応するには、ガバナンス上の機構設計の変更などに留まらず、企業経営そのものの改革を迫られる。それはコーポレートガバナンスがそもそも、株主をはじめ顧客、従業員、地域社会など幅広いステークホルダーの立場を踏まえたうえで、透明・公正で迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味していることからも明らかであろう。
では、高水準のガバナンス体制をいかに構築、運用していけばいいのか。次ページから武田薬品工業(タケダ)をモデルケースとして、考察していきたい。