パンデミック、自然災害、戦争…。我々が直面するリスクはとめどない。ESG(環境、社会、ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)などの長期的課題が重要な経営テーマとなるなか、リスクマネジメントにおいても長期的視点で守るべきものは何かを判断することが重要だ。関西大学の亀井克之教授は、そう指摘する。

リスク感性がリーダーシップに影響する

──リスクに対する備えには一定の投資が伴いますが、他の投資案件に比べて後回しにされがちです。

亀井(以下略) リスクマネジメントが短期的な利益や成長につながらないと考える経営者が多いことが、大きな要因の一つです。

 企業は株主に対してコミットしている業績目標の達成を第一義としています。ただ、コロナ禍でもわかったように、リスクへの備えができているかどうかで、業績は大きく左右されます。経営者は、利益創出とリスクマネジメントのバランスをよく考える必要があると思います。

──リスクマネジメントに関する意思決定を行ううえで、何を判断基準にすべきでしょうか。

 まず、リスクマネジメントとは何かを理解することです。経営におけるリスクマネジメントをわかりやすく表現するなら、①リスクを特定(確認)し、②その可能性と影響について想定(分析・評価)し、③どのように対応するかを決定する「3つの定」のプロセスといえます。また、未来に予想される大規模な損害発生の可能性について、現在の確定した小規模なコストに置き換えることともいえるでしょう。

関西大学
社会安全学部
⻲井克之教授
Katsuyuki Kamei
1962年大阪府生まれ。博士(商学)。関西大学総合情報学部助教授、同教授を経て現職。日本リスクマネジメント学会副理事長・事務局長、ファミリービジネス学会理事。『決断力にみるリスクマネジメント』(ミネルヴァ書房、2017年)など著書多数。最新刊『フランス映画に学ぶリスクマネジメント:人生の岐路と決断』(同、2022年)。専門はリスクマネジメント論。

 それを理解したうえで、起こりうる最悪の事態、ワーストシナリオを想定し、そこから逆算して、いま何をすべきかを判断することです。何が起こりうるのか、どんなリスクが想定されるのかを社内の各部門で洗い出します。

 洗い出したリスクは、それぞれの発生確率や被害の程度、対応の優先度を評価します。現場レベルで解決できるものなのか、全社レベルで対処すべきものなのか。あるいは、「確定要素」(予測可能なこと)と「不確定要素」(確定していないこと)に分けて評価することも大切です。

 このようにして、リスクをマッピングすることで、自社のビジネスモデルの脆弱性がどこにあるのか俯瞰できます。そして、複数の想定シナリオに基づいて、対応策を立案していきます。

 この一連のプロセスを実行することが、BCP(事業継続計画)の作成につながりますし、レジリエンス(柔軟な回復力)の向上につながります。

 企業を取り巻く経営環境は常に変化しており、それに応じてリスクも変わりますから、リスクの特定、想定、(対応策の)決定という「3つの定」は、定期的に行うことが重要です。

 3定プロセスを支えるのが2つのC、「コミュニケーション」と「コーディネーション」です。企業経営におけるリスクコミュニケーションとは、「我が社はどのようなリスクに直面しているのか」「そのリスクにどのように対応するのか」について、社内外のステークホルダーと共通理解を図ることです。共通理解を形成できていれば、顕在化したリスクに迅速に対処できますし、取引先や株主など外部ステークホルダーへの対応もスムーズになります。