「社会課題解決力」を高めるための
プラットフォームを共創する

――モニター デロイトの目指すCSVとも共鳴するところがあったのでしょうか。

三室 未来への思いや熱意への共鳴とともに、壮大で難しい道のりのスタートラインに立たれていることも感じました。そこで、私たちがふだん、社会課題の解決に感じてきたある種の矛盾を克服することから考えました。

三室彩亜モニター デロイト
ディレクター

 モニター デロイトは、これまでにも数多くの企業や団体に社会課題解決のためのコンサルティングを提供してきましたが、SDGs(持続可能な開発目標)だけでも17の目標と169のターゲットがあるように、社会課題は砂漠の砂の数ほど存在します。日本社会の特性や、企業ごと、業界ごとの事情に合わせて優先順位をつけながら課題を解決していっても、日本全体から見るとごく一部の課題しか解決できない可能性があります。

 どのような社会課題に直面しても、その課題の性質や状況に応じて適切な解決方法をそれぞれの企業や市民一人ひとりが導き出せる「社会課題解決力」を強化できるような仕組みをつくることができれば、日本全体として未来の可能性や選択肢が広がるはずです。長期的な取り組みであればこそ、これに挑めると感じました。

稲葉 解決すべき社会課題はいろいろあるけれど、結局、日本全体として解決できる力を底上げしなければ社会的インパクトは大きくならないということは、私たちも感じていました。

 そこで、社会課題解決力を強化するためのプラットフォームを共創しようということになりました。

 「未来の可能性と選択肢がひらかれた社会をつくりたい」という未来図(Picture of Future)の下、その実現のための基盤として、「未来の意思決定のための信頼のおけるプラットフォーム」を構築することを目指したのです。

――それが「参加型デジタルツインシミュレーションプラットフォーム」ですね。プラットフォームの概要については、前回の「デジタル防災訓練」に関する鼎談で伺いましたが、なぜ、デジタルツインによる仮想現実体験を「社会課題解決力」強化のための基盤として選んだのでしょうか。

稲葉 もともとNTTグループは、「IOWN」構想のもと、デジタルツインコンピューティング技術を駆使して現実世界で起こり得ることの高度なシミュレーションを行い、社会課題の解決に貢献するという壮大な構想を描いています。その技術力を応用すれば、よりインパクトのある体験を参加者に提供して、社会課題解決力を高められるのではないかと考えたのです。

 たとえば、通常の防災訓練の場合、災害の状況をリアルに再現するのには限界がありますが、デジタルツインなら、どんな状況でも自由に再現することが可能です。しかも、さまざまな変数を加えられるので、状況の変化に応じて意識や行動がどのように変わるのかということも、リアルな訓練よりはるかに簡単に分析できます。

――第1弾としてデジタル防災訓練の実証実験が2022年からスタートしますが、それ以外の社会課題に関する実証実験も計画されているのでしょうか。

稲葉 食料需給の安定化やフードロス対策など、いろいろな切り口で実験を行っていきたいと考えています。第1弾としてデジタル防災訓練を選んだのは、近年、自然災害による経済的な損失が非常に大きくなっていることなどから、特に優先すべきテーマだと判断したからです。社会インフラを担うNTTグループとしても自分事として考えられますし、今後の実験についても、社会的に優先度の高いテーマに順次取り組んでいく予定です。こうしてデジタルの力で社会課題解決力を高めることが、より生産性が高く、人にやさしい社会の実現につながると考えています。