より多くの共創パートナーと「価値の循環」を
実現させる

――デジタル防災訓練もそうですが、「日本版Smart Society」では、生活者に仮想現実を体験してもらうことで、状況変化に応じて人々がどのように判断し、行動するのかを可視化し、分析することが大きなポイントとなっているようですね。

三室 その点こそが、このプラットフォームの最大の特徴であり、ほかの社会課題解決関連の取り組みとの大きな違いであると思っています。

 「日本版Smart Society」では、「生活者を集め、惹きつける」「シミュレーションによる行動や意見の収集と可視化」「アクチュエーションによる最適・平衡化および行動変容」「価値の循環」という4つのキーサクセスファクター(KSF)を設定していますが、なかでも重要なのが「シミュレーションによる行動や意見の収集と可視化」です。

 人々の意見や行動は簡単に収集できると思われがちですが、実際は容易ではありません。なぜなら、生活者にはテクノロジーを活用するなどして積極的に発言できる人と、そうでない人の違いがあるからです。

 いわゆるサイレントマジョリティが世の中の大半を占める中で、SNSの分析だけではすくい取れていない人々の意見や行動をいかに可視化していくか。「日本版Smart Society」では、仮想現実を体験した生活者の反応を見ることで、そうした人々の意見や行動の収集や可視化ができるわけです。

――サイレントマジョリティの声を収集するためには、より多くの生活者に参加してもらうことも必要ですね。

三室 その意味では「生活者を集め、惹きつける」というKSFも非常に重要だと思っています。ただし、積極的に発言できる人だけが集まってしまうと、結局、サイレントマジョリティの声は埋もれてしまいます。

 デジタル防災訓練で言えば、防災意識が高く、家族や生活を守るために参加したいといった義務感や使命感を持つ人だけでなく、日常生活の中で「ちょっと便利だから使ってみたい」「何となく面白そうだから参加してみたい」と思っていただけるようなプラットフォームに進化させていく必要があります。

――そのためにも「惹きつける」という要素が重要になってくるわけですね。

稲葉 オンラインで市民の声を集めて、意見を集約し、政策に結び付けていくツールとして「Decidim」(デシディム)がバルセロナやヘルシンキなどで使われており、日本でも兵庫県加古川市などが導入しています。これも市民参加型のプラットフォームとして素晴らしいものですが、私たちは民間企業を含めてより多くの共創パートナーにも参加してもらうことで、日常生活にとけ込んだ便利さや面白さを持ったプラットフォームとして、魅力を高めていきたいと考えています。言わば、「人にやさしい」プラットフォームです。

 そして、このプラットフォームに参加していただくことで気付かされる「見えにくい民意」を汲み上げることができれば、Decidimのようなプラットフォームとも補完し合えるものと考えています。

 社会的インパクトを高めるには、プラットフォームとしての規模も必要であり、多くの人たちに参加してもらうためにも「人にやさしい」というのは、重要なコンセプトだと思います。

 このプラットフォームに参加し、サイレントマジョリティの意識や行動に接することで、企業や自治体にとっては新しいビジネスやサービスを生み出すきっかけになるはずです。将来的にはAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)も用意して、プラットフォーム上でさまざまなアプリを市民に提供できるようにしていきたいと考えています。

 2022年から実証実験を開始するデジタル防災訓練では、共創パートナーが参加を通じて新たなビジネスや製品・サービスを生み出すサイクルを一つでも多くつくりたいと思っています。

三室 「日本版Smart Society」はCSVの観点からスタートしたものなので、まずは本取り組みの意義に共感していただける参加者かどうかが重要ですが、同時に事業者である共創パートナーが経済的な価値を得られるものでなければ、サステナブルな取り組みとはなりません。

 その意味でも、先述した4つのKSFのサイクルを回して「価値の循環」にまで至ることが重要です。そうした事例が出てくれば、「社会課題解決力」を備えた社会は、社会的意義と経済的価値の両立された社会であることを、多くの方に実感していただけると期待しています。