タコベルのCEOから
チポトレのCEOへ

『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙の新着ニュースがきっかけで、次の仕事を見つけるという話はそうそうないが、筆者はまさにチポトレ・メキシカン・グリルのCEOへの道をそのように歩み始めた。

 米国のメキシコ料理ファストフードチェーンであるチポトレ・メキシカン・グリルは、2015年に複数の店舗で大腸菌とサルモネラ菌による食中毒を起こしてから、いくつもの困難に直面していた。同社は2017年11月、オペレーション、デジタル戦略、マーケティングの改善を担う新たなリーダーを募集していることを発表した。筆者はこれを見て「面白そう」と思ったのだ。

 筆者は当時タコベルに在籍し、最高マーケティングイノベーション責任者、社長、そしてCEOとして6年余りを過ごしていた。

 2つのチェーンの主戦場は異なる(タコベルは、便利さ、安さ、速さを謳い、定期的にメニューを更新する。それに対して、チポトレはファストカジュアルの位置付けで、新鮮な素材を重視し、カスタマイズに対応する)ものの、チポトレが創業され成長していく様子に魅力を感じ、同社の動向を注視してきた。

 個人的にチポトレのブリトーやボウルは好きだったし、依然として、忠誠心の高いロイヤルカスタマーを持つ優れたブランドであることもわかっていた。同社は、事業を速やかに立て直す必要があっただけなのだ。リーダー募集のニュースを目にしてからの数週間で、筆者はこの求人を扱う人材斡旋会社に連絡を取り、CEOとして率いることになる再建計画の話し合いを開始した。

 それからわずか3年後、筆者の着任前から活動する素晴らしいチームと、着任後に加わった人々のおかげで、チポトレはフォーチュン500の仲間入りを果たした。

 デジタルセールスを成長させ、リワードプログラムの開始により2400万人(本稿執筆時点)の会員を獲得し、平均最低賃金を時給15ドルに引き上げ、新たに200店をオープンさせた。また、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの中でもビジネスを継続できただけでなく、さらに強くなって復活したのだ。

再建計画を形にする

 筆者は2011年にタコベルに入社するまで、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)で9年間、ブランドマネジメントに従事し、シカゴ大学のMBAプログラムでファイナンスを学び、ピザハットで5年間働いた。そして大きな野心を抱いてタコベルのマーケティングとイノベーションを担う職に就き、3つの重要な仕事を成し遂げた。それはソーシャルメディアとデジタルのマーケティングを大幅に強化したこと、ドリトス・ロコス・タコスをはじめとする新メニューを投入したこと、より時代に沿った創造的で若々しいブランドに転換したことである。

 この期間で、チポトレはホルモン剤や抗生物質を使わないおいしい料理と顧客フレンドリーな文化で人気を博し、筆者も好んで利用するようになった。チポトレの話をする友人知人がいたら、その魅力を深く理解しようと質問攻めにしたものだ(P&Gで洗口液「スコープ」に携わっていた時は、「リステリン」について同様の情報収集を行った)。

 チポトレの採用担当者との交渉が始まると、同社のレストランの内部で起こっていることをもっと知りたくなった。南カリフォルニアの自宅近くにある何店かを訪問し、他の地域に出かける時は必ずチポトレに立ち寄った。すると、チポトレのオペレーションは、本来必要とされる円滑さを備えていないことがわかってきた。

 最終的には、同社の創業者で当時CEOを務めていたスティーブ・エルズに、いくつかの店舗に自分と一緒に行ってほしいと申し出た。レストラン側には、我々が訪問することをいっさい知らせなかった。

 我々の最初の印象は良好だった。顧客は列をつくって並んでいた。しかし、その列がなかなか進まない。先頭にたどり着くと、チームメンバーが注文された商品を準備していたが、研修や指導を追加で行えば効率が上がることは一目瞭然だった。

 また、マネジャーは十分に手が回っていない様子だった。これは大きな問題である。マネジャーが自信を失っていると、それはチームに波及し、オペレーションの不手際という形で表れるからだ。

 チポトレは常に、競合企業と比べて複雑な戦略を取ってきたため、そうなることも不思議ではなかった。チェーンレストランの競争要因は、品質、価格、スピード、カスタマイズの4つである。そのうち1つか2つに集中するチェーンが多い中、チポトレは4つをすべて提供しているのだ。

 この難しさが露見した一つの例が、食の安全に関わる出来事だ。従来のクイックサービスレストランは、食材をセントラルキッチンで調理し、店舗では注文に応じて再加熱し組み合わせるだけという方法が一般的だ。チポトレの場合は異なり、各店舗で新鮮な肉や農産物を一から調理することを求めるため、非常に手間ひまがかかる。

 例の健康不安問題が発生した後、同社はこれらの課題に取り組んできた。マネジャーと従業員にベストプラクティスを遵守させるために、「フード・セーフティ・セブン」と呼ぶチェックリストを導入したが、ルーチンとして定着してはいなかった。筆者は、優れた習慣の実践と強化に取り組む必要がありそうだと考えていた。

 筆者が着任する前、チポトレは年間約200店のペースで店舗を展開しており、この成長速度もオペレーション能力と文化構築の負担となっていた。この拡大ペースは見事なもので、顧客はさらなる拡大を期待していたが、スタッフを採用して訓練する企業側の能力が追い付かなかったのだ。オンライン注文ができるモバイルアプリを新たに導入したことで、顧客サービスはますます煩雑になり、エルズと筆者が経験した長い待ち時間を解消する策にはならなかった。

 最終的に筆者が気づいたのは、チポトレはマーケティングに年間1億5000万ドルもの費用を投じているものの、そのメッセージが際立っていないということであった。

 筆者の頭の中で、そしてチポトレの取締役との対話の中で、再建計画が形になり始めた。そして2018年3月、筆者はCEO職に就くことを受け入れ、チームとともに計画の遂行に向けて動き出した。

誠実な食品

 最初に目指したのは、素晴らしい食文化の維持に、それまで以上に力を入れることだ。

 我々は「フォー・リアル」と銘打ったマーケティングキャンペーンの一環で、食品成分の完全なリストを自社のウェブサイト、レストランの店内、ソーシャルメディアチャネル、広告に隠し立てすることなく掲載した。研修プログラムを展開し、チームメンバーにシェフのような思考を奨励するようマネジャーらに指示した。そして、食品成分情報や、自社のパーパスと「誠実な食品」という約束を実現するための期待事項をポケットガイドに盛り込み、それを全従業員に配付した。

 従業員はいまや、料理の味見をする──ライスの塩味は十分か、ワカモレにコリアンダーを入れすぎていないかを確認する──必要性を理解している。季節によってアボカドやライムの風味が変わる場合があるため、常にテストし、配合を調整する必要があることも教育済みだ。

 同様に重視したのが、顧客中心主義を取り戻すことである。マネジャーはチームメンバーに対して、食事はどうだったか、ライスとチキンのバランスはよかったか、ソースは足りていたかを顧客に尋ねて、その意見に真摯に耳を傾けるよう促した。

 デジタルの力を活用できれば、チポトレが大きな恩恵を受けられることもわかった。登場して間もないチポトレのモバイルアプリは、店舗を再設計して、列に並ばなくても商品を受け取れるようにしない限り、顧客にメリットをもたらさなかった。そこで各店舗のレジ横にテイクアウト用の棚を設け、注文した商品の見つけ方を顧客に周知した。

 チポトレの評判を傷付けていた別の問題も解決した。その問題とは、列に並んでいる顧客が、スタッフが自分への接客を中断してオンライン注文の商品を揃えるのを見て、気分を害することだ。

 我々はレストランのバックヤードに2つ目の「キッチン」をつくり、別途スタッフを置いてオンライン注文に専念させた。そして、オンライン注文をわかりやすく画面に表示する、新たなコンピュータシステムを追加した。単純な解決策だと思われるかもしれないが、これを2400のレストランで実行するのは簡単なことではなかった。

 それを達成できたのは、チポトレが売上高60億ドル規模の企業であるにもかかわらず、スタートアップの感覚を持ち続けているからだ。官僚主義的な部分がほとんどないのだ。

 筆者がCEOに就任した6カ月後、ゼネラルマネジャーら総勢3500人を集めた年次会議を開催した。あまりの大人数だと思うかもしれないが、和気あいあいとしたカジュアルな雰囲気の会合だった。変化の実践に向けて、すでに全員が熱い気持ちを持っていることも感じられた。

 筆者はマーケティングも改善分野に位置付け、こちらも進化を続けている。

 2015年に食の安全の問題が発生したことを受け、チポトレは顧客をレストランに呼び戻すために、各地で大々的に「一品購入するともう一品無料」キャンペーンを展開していた。だが、これは極めて防衛的でコストのかかるプロモーション重視のアプローチであり、無料提供はチポトレのブランドが必要としていたものではなかった。そこで我々は、マーケティング費用の支出先を自社のメッセージ──たとえば「フォー・リアル」──をもっと深く届けられる場のソーシャルメディアとテレビに移行した。

 リワードプログラムも重要な取り組みの一つである。

 現在、チポトレのデータベースには2400万人を超える会員が登録されており、我々は彼らがどのような動機から店内で食事をしたり、テイクアウトしたりするのか、その2つの行動の頻度をどうすれば高めてもらえるのかという点について理解を深めるべく、情報収集を行っている。チポトレはこの分野で少々後れを取ったが、他社の動向に注目し、学習して、他社の取り組みの中から最良の部分を取り入れられることはプラスである。

 チポトレのリワードプログラムはまだ初期段階にあり、登録者数を増やして、パーソナライズやオファーのカスタマイズを開始したところだ。この取り組みを通じて得た理解と洞察が、やがて大きな見返りをもたらすと期待している。

 一方、それほど手を加えていない分野の一つがメニューだ。筆者は前任者のエルズを大いに評価している。彼はあらゆる組み合わせに対応できるメニューをつくり上げた。ベジタリアン、ケトジェニックダイエット、パレオダイエット、ホールサーティダイエットといった食習慣を持つ人も、チポトレならば何かしら選べるメニューがある。

 そこで我々は、多くの新メニューを追加したり、毎月のおすすめメニューを宣伝したりする代わりに、定番商品の意外な特徴──たとえばスモークブリスケットのタンパク質含有量──を強調する期間限定メニューや、食習慣に合わせて選べるライフスタイルボウル(オンラインでワンクリックの注文が可能)を提供している。メニューにカルネアサダを追加し、ケソディップの新たなレシピも考案したが、他の多くのレストランのように、集客のためにメニューを改定する必要はなかったし、現在もその必要はない。

パンデミックの対応で方向転換を行う

 チポトレは2020年3月以前からデジタルアクセスに投資していたが、新型コロナウイルス感染症の流行を受けて、その投資を加速させた。我々は困難な状況の中でも方向転換を成功させ、急速に変化する顧客ニーズに対応することができた。これは我々のビジネスモデルの耐久性と、チームメンバーの強みが発揮された証である。

 パンデミックの間、我々は従業員の健康チェックを行い、チームメンバーと顧客の安全を確保するために有給病気休暇を与えた。また、レストラン従業員の賃金を引き上げたほか、エドテック分野のベンチャー企業であるギルド・エデュケーションとのパートナーシップを拡大し、従業員が大学学位の取得を目指せるようにした。チポトレは100種近くの学位取得課程の授業料を全額支援し、授業料返還プログラムも用意している。

 パンデミックの発生当初、我々はウーバーイーツやグラブハブと速やかに、サードパーティ・デリバリー・パートナーシップを新たに締結し、すべてのマーケティングメッセージを無料デリバリーと安全対策に集中させた。店舗は営業を続け、全店を対象とした初期の投資(高度な空気清浄システムや除菌剤など)によって安全対策を強化した。

 デジタルセールスは前年比で174.1%成長して28億ドルに達し、2020年の売上高全体の46.2%を占めた。その約半分がデリバリー注文であり、パートナーシップを拡大したことが奏功した。残りの売上げは、事前注文と、便利なドライブスルー「チポトレーン」の増加によるものだった。

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 ここ数年のチポトレは、もともとのコアバリュー──当社の場合、卓越した料理と素晴らしい顧客サービス──にあらためて注目することによって、いかにビジネスを再建できるかを示してきた。

 筆者が着任した当時、メニューに朝食を追加すべきではないか、安全性を高めるために冷凍食品に切り替えるべきではないか、ハンバーガーチェーンのようにセットメニューを提供すべきではないかと問う者もいた。だが、それらを実行すべきでないことはわかっていた。我々に必要だったのは、すでに人々に愛されているチポトレのやり方を、さらに磨き上げることだったのだ。

 それからの3年間、その実現に貢献できたことに、筆者は満足している。


友納仁子/訳
(HBR 2021年11-12月号より、DHBR 2022年7月号より)
The CEO of Chipotle on Charting a Culinary and Digital Turnaround
(C)2021 Harvard Business School Publishing Corporation.

PHOTOGRAPHY: Christina Gandolfo

ブライアン・ニコル(Brian Niccol)
チポトレ・メキシカン・グリルの会長兼CEO。