企業統治の形は、社内に無秩序に分散していた時代から、機能を集約・統合し強いリーダーシップの下で一元的な運営を目指す時代を経て、再び分散の時代を迎えている。コンサルティングファーム、エル・ティー・エス(LTS)執行役員の山本政樹氏は、経営者のコーディネーターとしての役割が重視されると指摘する。

ボトムアップ経営から
トップダウン経営へ

 高度成長期から1990年代までの日本企業は、現場の力が強いボトムアップ型の経営が特徴とされ、社内のさまざまな機能とその意思決定は、各所に分散する傾向にあった。それは経営判断の遅さといった問題を抱えつつも、それでも変化の少ない安定成長の時代(あるいは計画成長の時代)には有効に機能した。だが、バブルが崩壊し、劇的な改革が必要とされる局面が多くなると、ボトムアップ型では対応できないことが明らかになった。

エル・ティー・エス
執行役員
山本政樹氏

「そのため2000年前後から10年代にかけては、多くの日本企業が米国式のトップダウン経営をお手本にした」とLTSの山本政樹氏は言う。

「そして、強いリーダーシップの下に意思決定を集約・統合させる中央集権的な体制に経営をシフトさせ、各領域にCXOといった最高責任者を置くことが主流となったのです」

 このような“分散から統合へ”の流れが現場をどう変えたのか。山本氏はIT部門を例に、次のように解説する。

「2000年以前はITに一貫したポリシーを持つ企業は少数でした。ITはビジネス部門の意思に従って限定的に活用され、これらを支援するIT部門の実態は、さまざまなシステムの開発や保守・運用に従事するチームの寄り合い所帯でした。ところが、経営におけるITの重要性が高まるにつれて『IT部門が全社の業務改革をリードすべき』『IT部門はもっと経営貢献すべき』といった認識が高まり、IT機能を全社として統合し、強化する流れに変わったのです」

 つまり、CIOの下でIT戦略を立案し、全社のデジタル活用をリードする組織を目指したのである。

 そして、10年代も後半になると、分散から統合へという流れの“巻き戻し”が始まった。

「IT部門の場合、デジタルの経営における重要度がさらに増すと、逆に全社のデジタル活用をIT部門だけで進めることに限界が生じました。ビジネス部門主導によるデジタル・トランスフォーメーション(DX)の取り組みは増え、従業員全体のデジタルリテラシーの向上は喫緊の課題となりました。そのような背景から、IT部門にはビジネス部門のデジタル活用能力を向上させる再教育(リスキリング)センターの役割が期待されるようになっています」

 さらに、デジタル活用はIT部門が独占的に行うものではなくなり、ビジネス部門との一定の役割分担の下で推進していく体制に変わるにつれて、デジタル活用を推進する社内の関係者たちが互いにノウハウを共有したり、相談し合ったりするコミュニティセンターのような役割も求められるようになった。

「このような“分散”の流れは他の機能でも同様です」と山本氏。

 図表で示したように、顧客接点、人材育成などの分野でも、IT同様の分散→統合→分散の流れが起こった。