デジタル人材は、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進するうえで最も重要な経営リソースと言っていい。だが、情報処理推進機構の『DX白書2021』によると、変革を担う人材が「大幅に不足している」「やや不足している」とした日本企業は76%に及び、米国の43%と比較すると大きな開きがある。デジタル時代においては、このギャップが企業競争力の差、ひいては国力の差に直結する。デジタルを活用した企業変革や、イノベーティブな製品・サービスの創出に向けて産官学を挙げてデジタル人材の育成・輩出を急ぐことが、国家的な課題となっている。
DX推進の主役となるデジタル人材の育成を、国全体としてどう推進していくのか。政府の政策方針について、経済産業省情報技術利用促進課の内田了司課長に聞いた。
DXの停滞が国力の衰退に
政府として旗を振っていく
──経済産業省が2018年に発表した『DXレポート』は、産業界での注目度が高く、DX推進に向けて企業の背中を押す役割を果たしました。
内田(以下略) DXは待ったなしという機運は醸成できたと思います。ただ、情報処理推進機構(IPA)が約500社におけるDXの取り組み状況を分析した結果、全体の8割以上がDXに着手していないか、散発的な実施に留まっていることが明らかになりました(2021年12月時点)※1。
2020年12月に公表した『DXレポート2(中間取りまとめ)』※2で指摘した通り、DXの本質はビジネス環境の変化に対して迅速に適応して競争上の優位を確立することであり、そのためにはITシステムのみならず、製品やサービス、ビジネスモデル、さらには企業組織や企業文化の変革にも踏み込むことが必要です。

商務情報政策局
情報技術利用促進課長
内田了司氏
DXは、企業が社会に価値を提供し続けられるようにみずからの存在意義を再定義し、必要な変革をしていくのが本道です。DXの停滞は結果的に国力の衰退にもつながりますので、政府としてもしっかりとDX推進の旗を振っていく必要があると考えています。
──具体的にはどのような政策で、DX推進をサポートしていますか。
企業内面への働きかけと、市場環境整備による企業外面からの働きかけの両面から政策を展開しています。
前者では、DX推進指標(デジタル経営改革のための評価指標)※3による自己診断の促進やベンチマークの提示が挙げられます。後者としては、DXの自主的な取り組みについて経営者に求められる対応をまとめた「デジタルガバナンス・コード」※4を策定し、その内容をもとに企業を認定する「DX認定」※5、上場企業を対象とした「DX銘柄」※6の選定を行っています。
DX銘柄は、DXの取り組み状況をステークホルダーに可視化し、企業と市場の対話を促すとともに、他の企業に対してベストプラクティスを提供する目的があります。
中堅・中小企業のベストプラクティスについては、「DXセレクション」※7として公表しています。また、中堅・中小企業向け「デジタルガバナンス・コード」実践の手引き※8も作成し、各地で説明会を行ってきました。
大企業に比べて経営資源が少ない中小企業こそ、データとデジタル技術を活用した付加価値の創出が目に見える成果をもたらしやすい面もあります。
たとえば、伊勢神宮近くの老舗食堂ゑびや(三重県伊勢市)は、経営者が「なぜ儲からないのか」を真剣に考え、DXに着手しました※8。地域の宿泊予測や天気予報などのオープンデータとグルメサイトのアクセス数など自社で保有するデータを組み合わせ、食堂の来店客数を予測するアルゴリズムを開発。これによって、効率的な人員配置や料理提供時間の短縮、客単価向上、食材の廃棄ロス削減などを実現しました。
こうした事例を全国的に増やしていくことが、政府としての課題です。そこで私たちは、地方の中小企業に各種支援策を有効活用してもらうために地域金融機関と連携することにしました。その初のケースが、経済産業省と、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)が組んだ社会実験※9です。