リアルデータのプラットフォーマーを目指す

――グループ内外のリアルデータを活用して社会に対して新たな価値提供を目指すSOMPO HDの「リアルデータプラットフォーム」(RDP)とSLVの事業は、どのような関係にあるのでしょうか。

楢崎 ネット上のバーチャルなデータは、GAFAを中心としたプラットフォーマーが握っていますが、私たちは彼らにはない人の健康に関するデータ、介護現場のデータ、事故のデータといった、事業や現場に根ざしたリアルなデータを大量に持っています。

 このリアルデータの宝庫を活用して、企業ミッションである「安心・安全・健康のテーマパークをつくる」のがRDPです。RDPの開発はさまざまなパートナーと共同で行っており、データ解析大手の米パランティア・テクノロジーズのソフトウェアを活用しています。

 RDPの実例を一つ挙げると、介護RDPがあります。グループ会社のSOMPOケアは、施設介護と訪問介護で約8万人を介護しており、国内では最大規模です。約2万5000人の施設入居者の方々には、IoTベッドを使用していただいており、寝ている間に心拍や呼吸などのバイタル(生体)データを取得できます。そのほか、食事や入浴などの介護記録もデジタルデータとして蓄積しており、これらのリアルデータを解析することで、介護の効率が約3割もアップしました。

SOMPOホールディングス
デジタル事業オーナー 執行役専務
SOMPO Light Vortex
代表取締役CEO
楢崎浩一氏KOICHI NARASAKI

1981年三菱商事入社。ICT関連事業に携わった後、2000年から米シリコンバレーを中心に複数のスタートアップ企業で、CEOやCOOなどを務める。2016年、SOMPOホールディングスに入社し、グループCDO 執行役員、2019年Palantir Technologies Japanの代表取締役CEO(現任)、2021年グループCDO 執行役専務およびデジタル事業ユニットオーナー・最高責任者、同年7月SOMPO Light VortexのCEO就任。2022年4月より現職。

 可視化したデータを用いて経験の浅い介護職員でもベテランのような高品質なサービスを提供できるようにしたり、要介護者の健康状態を予測することで病気の悪化を防いだりしています。

 このような、「見える介護」「匠を仕組みに」「予測する介護」が、介護RDPの価値であり、SOMPOケア以外の介護事業者にも活用していただくことで、介護のベストプラクティスを社会実装していきます。

 RDPがもたらす価値を社会実装するうえで、キープレーヤーの役割を担うのが、SLVです。

田村 SOMPO HDはリアルデータを使ってどんな未来をつくりたいのか、社会にどのようなインパクト(よい影響)を与えたいのかというビジョンがとても明確で、その点には我々も非常に共感できます。

 ACESは、「アルゴリズムで社会はもっとシンプルになる」というビジョンを掲げているのですが、SOMPO HDのビジョンと共通する部分が多いというのが私の印象です。だからこそ、ACESとSLVの協業が長期視点での資本業務提携という関係に発展したのです。

――ACESをパートナーに選定する決め手となったのは何ですか。

楢崎 RDPによる価値創出の注力領域の一つに、モビリティがあります。先ほど申し上げたB2Bオークション事業もモビリティ領域における取り組みの一つです。

 B2Bオークション事業を成長させるうえで、車両損傷認識技術がカギになると考え、複数のAIベンダーからヒアリングを行いました。私たちの事業構想に対する理解が深く、短期間のプロジェクトで損傷認識精度の向上を実現したことから、ACESさんをパートナーに選びました。

 その後、協業を進める中でACESさんの実力を検証できたので、資本業務提携に至ったということです。

田村 先述した通り、AIバリューデザインが当社のコアコンピタンスです。現状の延長ではなく、テクノロジーが発達した未来におけるあるべきビジョンや勝ちパターンを描き、そこからバックキャスティングして具体的なロードマップに落とし込む構想力が、当社の最大の強みだと考えています。

 ACESは東京大学・松尾豊研究室発のスタートアップとして、多数のAI研究者、AIエンジニアを抱えています。世界のAI技術の最先端を理解し、それを正しく活用できる力があります。いまのAIに何ができて何ができないか、何年後に何ができるようになるか。そうした知見をSLVさんが目指すビジョンや事業構想とひも付けて、実現へのロードマップの解像度を高めることができます。

 特にディープラーニングを活用して映像・音声・言語などの非構造データを、解析しやすい構造化データに変換する技術は、世界で戦えるレベルにあると自負しています。

楢崎 当社に限らずリアルデータを豊富に持っている日本企業はありますが、その多くが非構造データで、保管場所や保存形式がばらばらなため、活用されていません。それを構造化データとして活用するためのブレークスルーを起こしたのが、ディープラーニングであり、RDPによる価値創出を最大化するために必須の技術だと考えています。

田村 もう一つ、ACESでは自社で開発したアルゴリズムをモジュール化して、目的に応じてレゴブロックのように自由に組み合わせて提供できるよう資産化しています。これによって、他社には実現できないスピード感での技術検証が可能になっています。