ばらばらだったデータの価値をAIによって止揚する

田村 自動運転のレベルは5段階で定義されており、システムが常時すべての運転タスクを実施するのがレベル5です。現状ではその一つ下のレベル4の実証実験が行われている段階ですが、たとえば、デジタル広告の分野などではすでに、システムが出稿媒体や出稿のタイミング、広告料金などをすべて決めるレベル5が実用化されています。

 今後、さまざまな産業や業務分野でレベル5化が進んでいきます。属人的な知見で成立していた従来の業務をどうアルゴリズムに置き換え、自社はどのようなレベル5の世界を目指すのか。その問いの立て方が大事です。

 たとえば、当社は営業支援AIツール「ACES Meet」をリリースしました。これは商談参加者がどのタイミングでどれくらい話したか、参加者のリアクションや感情はどう変化したかをAIで解析することにより、優れた営業担当者の属人的なスキルやナレッジを誰もが共有できるようにするものです。商談中にどこで失注につながったのか、どの言葉が受注に結び付いたのかといったこともわかります。

ACES
代表取締役
田村浩一郎氏
KOICHIRO TAMURA
東京大学大学院工学系研究科卒(工学博士)。松尾豊研究室で金融工学における深層学習の応用研究に従事。Forbes 30 Under 30 Asia 2022 Enterprise Technology部門に選出。2017年、「アルゴリズムで社会はもっとシンプルになる」というビジョンを掲げACESを創業。アカデミアと事業の接合を意識し、会社を経営しながら博士号を取得した。AIアルゴリズムを前提にした働き方・産業はどのような姿かという問いを立て、AIの社会実装を率いる。

 営業は属人化した知見で成り立っている業務の最たるものの一つだと思いますが、熟練者の知見をアルゴリズムに変換する、つまりAIトランスフォーメーションすることによって、営業のレベル5化という未来を描くことができます。

楢崎 ボトムアップ型の意思決定システムやウォーターフォール型で開発されたITシステムといった、広い意味での従来の経営システムは転換期を迎えていると感じており、ACESさんが展開されているような最新のAI技術を用いたソリューションを掛け合わせることで、新たな経営システムへの刷新が可能になると思います。

 AI×データが巻き起こしているゲームチェンジを、経営システムをアップデートする好機ととらえるべきです。ばらばらだったデータの価値をAIによって止揚することが、企業や産業の経営システムの基盤、OS(基本ソフト)になるはずです。

――そのような未来に向けて成長機会をとらえるために、経営者はどのような視座を持つべきでしょうか。

楢崎 時間という最大のアセットを無駄にしないことです。世界中のどんな企業も、誰にとっても1日は24時間しかありません。そのアセットを最大限有効活用するには、経営者もテクノロジーを正しく理解することが欠かせません。

 AIに象徴されるように、テクノロジーは日進月歩どころか、秒進分歩の速さで進化しています。それを知らないで経営するのは、為替相場の変動を見ないで貿易を行うようなものです。

 これからはAIと人が助け合い、ともに進化しながら、常にアップデートされた製品やサービスを世の中に提供していくことを目指すべきです。それができる企業は、社会により多くのウェルビーイングをもたらすことができると思います。

田村 まずは、トランスフォームした先にある未来像やビジョンをきちんと描くことが、経営者にとって重要な仕事です。ACESは、AIの専門家という立場から、AIを内包した将来の事業像を高い解像度で描くことをご支援します。

 また、そのビジョンを1日でも早く実現するために、小さなプロジェクトでもいいので早くスタートさせて、PDCAを素早く回していくことです。そのサイクルをいくつも回していけば、それが大きな渦となり、変革の実現につながるはずです。

SOMPO Light VortexとACESは、楽しみな組み合わせ

SOMPO Light Vortex CEOの楢崎浩一氏とACES代表取締役の田村浩一郎氏をよく知る東京大学教授の松尾豊氏は、両社のパートナーシップからどんな価値が生まれてくるのかとても楽しみだと語る。

東京大学大学院 工学系研究科
人工物工学研究センター 教授
日本ディープラーニング協会 理事長
松尾 豊氏

 日本ではDXの機運が盛り上がっていますが、企業によって温度差があります。多くの企業はDXを始めたばかりか、十分な成果が上がっていない状況です。DXはデジタル技術を導入して終わりではなく、組織や文化、業務プロセスなどを含めて変えなくてはならないものがたくさんあります。ですから、容易なことではありません。

 大企業の場合は、屋台骨の既存事業でリスクを取って何かを大きく変えるのは難しく、新規事業にフォーカスを当てDXにどんどんトライするほうがやりやすい。そういう意味で、SOMPOホールディングス(HD)がデジタル事業の新会社としてSOMPO Light Vortex(SLV)を立ち上げたのは、合理的だと思います。

 画像処理や自然言語処理の分野でAIの精度が大きく向上したのは、ディープラーニングが急速に発展したからです。SOMPO HDグループは損保、生保、介護などの事業でリアルデータを大量に保有しており、ディープラーニングの適用範囲が幅広い。ですから、SLVと(松尾研究室発のAIスタートアップである)ACESとのパートナーシップから、どんな価値が生まれてくるのかとても楽しみです。

 (SLVのCEO)楢崎さんとは以前から知り合いですが、日本のCDOとしてはトップランナーですし、ご自身が米シリコンバレーでスタートアップを経営した経験もある。ACESとしては理想的なパートナーですし、資本業務提携は今後の成長に向けたとてもいい機会だと思います。

 今後はあらゆる産業がデータドリブンになり、ソフトウェア産業に変わります。日本の大企業は長らく自前主義を貫いてきましたが、そうした産業構造の大転換を自社だけで乗り切ることはできません。デジタルやAIに強いエンジニアを大量に採用したり、短期間で育成したりすることは難しいので、スタートアップをうまく使って時間を早回しし、理想のビジョンに近づくべきです。

 その際にスタートアップを下請けのように使おうとすると長続きしませんし、成果も上がりません。スタートアップの経営者は夢や野望を持っているし、プライドもあります。それを理解したうえで、パートナーとしてともに変革に取り組むことです。

 大企業がスタートアップを選ぶ際は、単に優れた技術を持っているかどうかだけでなく、自社の事業ドメインに深く踏み込んで理解しているか、同じ船に乗って変革のゴールまでたどり着く決意があるかを見極めることが大事です。ACESはそうした条件を満たす、数少ないスタートアップの一つだと思います。

 豊富なリアルデータというアセットを持つ大企業グループと、優れた技術と深いドメイン知識を持つスタートアップが組んで、新規事業にチャレンジするSLVとACESのようなケースがもっと増えてくれば、日本のDXは大きく前進するはずです。

 

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