新たな事業ユニットとして、デジタル事業を立ち上げたSOMPOホールディングス。デジタル事業の運営主体となるのが新会社SOMPO Light Vortexであり、そのパートナーとして選ばれたのが、ディープラーニング(深層学習)研究の第一人者である東京大学・松尾豊教授の研究室から生まれたスタートアップ、ACES(エーシーズ)である。

両社は、「AI×データ」によってどのような変革を起こし、どんな価値を社会に提供していくのか。さらには、制度疲労を起こした日本の経営システムが、「AI×データ」によってどうアップデートされていくと考えているのか。

SOMPOホールディングス デジタル事業オーナー 執行役専務で、SOMPO Light VortexのCEOでもある楢崎浩一氏と、ACES代表取締役の田村浩一郎氏に聞いた。

ACES代表取締役の田村浩一郎氏(左)とSOMPOホールディングス デジタル事業オーナー 執行役専務兼SOMPO Light Vortex CEOの楢崎浩一氏

「横のデジタル」から「縦のデジタル」へ

――SOMPOホールディングス(HD)では、デジタル事業会社として2021年7月、SOMPO Light Vortex(以下SLV)を設立され、楢崎さんがCEOに就任されました。SLVを立ち上げた狙いについて教えてください。

楢崎 私は、2016年にグループCDO(最高デジタル責任者)としてSOMPO HDに入社しました。SOMPO HDには、国内損保、国内生保、海外保険、介護・ヘルスケアなどの事業ユニットがあり、これらの事業にデジタルで横串を通すのが、グループCDOの役割です。

 言わば、各事業オーナーがドライバーで、助手席にいてナビゲーションしたり、補佐したりしながら、デジタルによる既存事業の変革を一緒に進めていくのが私の役目でした。この「横のデジタル」を6年間、推進してきました。現在、日本企業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)のほとんどは、この横のデジタルに取り組んでいる段階だと思います。

 一方、私は米シリコンバレーを中心に16年間、スタートアップの設立や経営に携わってきました。新しい事業をつくるのが好きですし、得意だと思っています。それを櫻田(謙悟SOMPO HDグループCEO)もわかっていて、「(横のデジタルだけでなく)自分でもハンドルを握りたいだろう」と言われ、私は「ぜひ、やらせてください」と答えました。

 横のデジタルに対して、デジタルを使って新しいビジネスモデルをつくり、それを社会に実装して、収益を上げる。これを私たちは「縦のデジタル」と呼んでいます。この縦のデジタルを実行するために2021年4月、デジタル事業という新たな事業ユニットを立ち上げ、私が事業オーナーに就任しました。

 いまはデジタル事業をグループの柱に育てるのが私のミッションです。グループの経営管理母体であるSOMPO HDの中で縦のデジタルを進めるのは難しいので、SLVというデジタル事業の運営主体を別会社として立ち上げたというわけです。

 実はSLVを設立する前から、ACESさんにはデジタルによる価値創出を手伝ってもらっていました。その一つが、事故車をリユース・リサイクル事業者に売却するB2Bのオークション事業です。自動車の査定などでACESさんのAI(人工知能)技術を活用しています。このB2Bオークション事業は、SLV子会社のSOMPOオークスが運営していますが、想定以上にうまくいっています。

田村 横のデジタルとは、既存のバリューチェーンやビジネスプロセスをデジタルでどう改善するかということで、もちろんそれは大事なのですが、根本的な変革を生み出すのは、縦のデジタルだと思います。

 縦のデジタルは新たな事業をつくることですから、その事業によって「こういう未来をつくろう」というビジョンを明確に描く必要があり、そのうえでビジョンを実現するためにデジタルやAIをどう活用するかをデザインすることが重要です。それをACESでは「AIバリューデザイン」と呼んでおり、そこに我々のコアコンピタンスがあります。

 楢崎さんやSLVの皆さんもまさに私たちと同じ考え方で、未来はこうあるべきという点から縦のデジタルをスタートされている。そういう点に共鳴できたのが、SOMPO HDさんとの協業を始めた理由です。

 別会社として設立されたSLVは、我々と同じスタートアップであり、SOMPO HDという大企業のリソースをうまく使いながらも、意思決定は非常にスピーディですし、一人ひとりが「よし、自分がやろう」というメンタリティを持って、事業を推進していらっしゃる。そういう会社とご縁があったのは、とても幸運だと思っています。