
企業のEC戦略は、GAFAをはじめとするメガプラットフォーマーへの全面依存から、第三者も巻き込んだ「自社マーケットプレイス・プラットフォームの構築」へとシフトしている。その背景とメリットとは何か。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本代表の岩谷直幸氏と、マーケットプレイス構築のためのSaaSを提供するMirakl(ミラクル)代表取締役社長の佐藤恭平氏が語り合った。
企業と人が価値観をトランザクションする場
──企業のEC戦略におけるチャネルは、メガプラットフォーマーなどが運営するマーケットプレイスに出店するか、自社ECサイトを構築するかの二者択一でした。ところが最近、そのどちらでもなく、第三者にも出店スペースを開放した「自社マーケットプレイス」を構築する企業が増えています。背景には何があるのでしょうか。
岩谷 メガプラットフォーマーが提供するマーケットプレイスの枠内では表現し切れない自社の“世界観”を、共感してくれるパートナー企業と一緒に創り上げたいというニーズが高まっているのではないかと考えられます。
SNSの普及によってさまざまな情報があふれる中、消費者は自分の価値観に合った企業や製品・サービスの情報だけを選別したいという欲求を高めています。マーケットプレイスは、「たくさんの商品・サービスを集めて取引する場所」というのが本来の意味ですが、企業と人が価値観をトランザクションする場に生まれ変わりつつあるのではないでしょうか。自社マーケットプレイスなら、そうした世界観をストレートに発信できます。しかも、さまざまなパートナー企業を巻き込むので、自社だけでは提供し切れない多様なアイテムやサービスを取り揃え、顧客にアピールすることができるわけです。

日本代表
岩谷直幸氏
Naoyuki Iwatani
一橋大学経済学部在学中にHENNGE創業に関わる。1999年、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。2006年カーネギーメロン大学経営学大学院(テッパースクール・オブ・ビジネス)MBA修了。2021年、同社日本代表に就任。消費財・小売り企業に対して、主に戦略立案、オペレーション改革などに重点を置いたコンサルティングを提供。
佐藤 世界のEC市場では、自社マーケットプレイスが市場全体の伸びを大きく上回る勢いで急成長しています。Miraklが2021年に行った調査では、EC市場全体の売上高成長率が前年比12%だったのに対し、自社マーケットプレイスは25%と、2倍以上に急成長していることがわかりました。
Miraklは2012年にフランスで創業して以来、自社マーケットプレイスの構築を支援するSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)を世界中のエンタープライズに提供しており、この分野の成長を支えてきた自負がありますが、近年、非常に洗練されたコンセプトに基づいて自社マーケットプレイスを運営する企業が増えていることを実感します。
──具体的には、どのような取り組みが行われているのでしょうか。
佐藤 欧州系のあるアパレル量販会社は「循環型経済の支援」をコンセプトに掲げ、マーケットプレイス内で自社ブランドの商品を売るだけでなく、再生利用可能な繊維を使用した他社の製品にも出店スペースを提供しています。
岩谷さんが指摘されたように、自社の世界観に共感するパートナー企業を招き入れ、お客様に自分たちの考え方や伝えたい想いをよりインパクト大きく、明確に発信しているわけです。
岩谷 お客様に共感していただけるメッセージを発信することは、パーパス経営に通じるものがありますね。
しかもデジタルとオンラインによるコラボレーションですから、メーカーとサービス業といった異業種同士や、売り手と買い手といった協業も可能なのではないでしょうか。