“志”の共有が、コミュニティを発展させる
森 Machine Learning 15minutes!のようなコミュニティを長く続け、活動を広げていくうえで大切なことは何だと思いますか。
門前 いくつかありますが、最も重要なのは私利私欲のなさというか、ちょっと大げさに言うと「志」だと思います。
全脳アーキテクチャ・イニシアティブは、日本発の汎用AIをつくりたいという志を共有する人たちが集まっています。研究者のコミュニティは通常、狭い専門分野に特化した人たちが集まりがちなのですが、全脳アーキテクチャ・イニシアティブでは大きな志の下に、AIだけでなく、脳科学とかコンピュータサイエンスなどいろいろな分野の研究者が集まっていますし、私のような研究者ではない人間も正会員として受け入れる懐の深さがあります。
東京大学の松尾豊先生が理事長を務める日本ディープラーニング協会も、経済界とディープラーニング研究をつなげて、「日本の産業競争力の向上を目指す」という志で設立されています。
(全脳アーキテクチャ・イニシアティブの)山川先生も、松尾先生も、突き詰めて言えば「日本をよくしたい」という思いで、活動を続けていらっしゃるのだと思います。
森 なるほど、それは重要なポイントですね。ただ人を集めれば何とかなると思いがちですけど、共有できる志がないとコミュニティとして発展できないし、影響力も広がらないと。
門前 企業経営で言えば、ビジョンとかパーパスに当たると思うんですけど、根本的な志があるとないとでは、まったく違うはずです。
私は、Machine Learning 15minutes!という教室の最前列でAIを学びたくて勉強会を始めたと言いましたが、私と同じように純粋にAIを学びたいと思っている人は、初心者から大学の研究者まで誰でも歓迎しています。それは、後であらためて話しますが、日本がいまのままではいけないという危機感とか、日本をよくしたいという思いがあるからです。

主催者
KAZUMA KADOMAE
登録者約3300人、通算70回を超えたAI・機械学習に関するカジュアルトークイベント「Machine Learning 15minutes!」を個人で主催。毎回、先端的なAI研究者やAIの社会実装を進めるビジネスパーソンなどを講演者として招き、さまざまな角度から機械学習についての知見を広げるとともに、懇親会などを通じて国内有数のAIコミュニティを形成している。自然言語処理に特化したAIソリューション企業、FRONTEOの社長室 広報・マーケティングチーム クリエイティブディレクター。
仕事をしながら、プライベートの時間を使ってMachine Learning 15minutes!を運営するのはつらいと思う時もあるのですが、そういう志があるから手弁当で続けてこられました。それに、Machine Learning 15minutes!に集まってくださるのは、講演者も聴講者も「何かを変えたい」とか、「よくしたい」という人たちなので、そういう方々に毎月会えることが運営を続ける大きなモチベーションになっています。
森 最新の論文やAIモデルについてすごくわかりやすく学べるし、ふらっと立ち寄る感じで気軽に学べるところがいいですね。
門前 実は講演者の方々には謝礼をお支払いしていないのですが、Machine Learning 15minutes!の志に共感してお引き受けくださっているのだと思います。そのおかげで、有料のセミナーにもけっして引けを取らないクオリティのコンテンツを提供できていると考えています。
気軽に学べるというのも大事なポイントで、そのためにLTは1人15分という短い時間にしています。それと、私が大切にしているのは参加者同士の交流です。LTが始まる前には、登壇者全員に自己紹介してもらったり、AIに関する最先端の研究内容や業界のトレンドについて話していただいたりしています。LT終了後の懇親会は、みんなに議論の場を提供するために行っているのですが、一方的に教える、教わるだけではなくて、互いに学び合ったり、他の人から気づきを得たりできるよう、毎回、工夫して開催しています。
森 ほかの人たちの議論を聞いているだけでも、とても勉強になりますし、知的刺激を得られます。
たとえば、こういうアルゴリズムを実装してみましたというような「やってみた」という学習的な発表もあれば、専門家が最新の研究内容をMachine Learning 15minutes!でプレゼンするということもあります。最近では、グーグルが開発した大規模言語モデル「LaMDA」(ラムダ)の解説を行う発表が複数ありました。人間の意識に近づいたともいわれる先端技術について議論し、意見交換できたのは素晴らしかったです。
門前 Machine Learning 15minutes!では素人は素人なりに学べるし、研究者でも最先端のトレンドや知識に触れることができるのですが、面白いのは研究者が素人というか、ビジネスの現場に携わる人たちから実際の課題を聞くことで、大きな刺激やヒントを得ることがある点です。研究者同士の議論からでは得られない、新しい発想が浮かぶこともあるようです。