中国は2030年にAI関連産業で200兆円を目指す

 先ほど、「日本がいまのままではいけないという危機感」があるとおっしゃいましたね。

門前 ご存じの通りAIの研究でも実装でも、世界は米国と中国の2強時代になっています。AIやデータ活用の点では、日本にも先進的な企業が出てきていますが、それはごく一部で、総体的に見れば米中に大きく遅れていると自分は感じています。

 たとえば、米国でAIのR&Dや実装が進んでいる企業というとグーグルやアマゾンを思い浮かべる人が多いと思いますが、AIを研究している学生に最も人気が高い企業の一つは、映像配信のネットフリックスだと聞きました。

 同社が制作しているオリジナル作品ではデータ解析でキャスティング(配役)を決めたり、マーケットの予測に機械学習を使ったりするなど、ありとあらゆる場面でデータを活用しているそうです。つまり、ITカンパニーではない会社が、当たり前にAIとデータを活用しているわけです。

 ネットフリックスは、映像作品のどこで視聴者が一時停止したか、早送りしたかといった非常に細かいデータも取っていて、それをレコメンド(推奨)などのパーソナライゼーションに活用しています。

森 正弥デロイト トーマツ グループ
パートナー
Deloitte AI Institute 所長
MASAYA MORI

外資系コンサルティング会社、グローバルインターネット企業を経て現職。eコマースや金融における先端技術を活用した新規事業創出、大規模組織マネジメントに従事。世界各国のR&Dを指揮していた経験からDX(デジタル・トランスフォーメーション)立案・遂行、ビッグデータ、AI、IoT、5Gのビジネス活用に強みを持つ。東北大学特任教授。日本ディープラーニング協会顧問、企業情報化協会常任幹事。著書に『ウェブ大変化 パワーシフトの始まり』(近代セールス社、2010年)、『両極化時代のデジタル経営』(共著:ダイヤモンド社、2020年)など。

 デロイト トーマツ グループでは2021年、企業のAI活用動向に関するグローバル調査(*2)を実施したのですが、グローバル全体で54%の企業がAI活用で高い成果を上げたとしているのに対して、日本は34%と少なくて、多くの企業でAI活用は限定的なレベルに留まっています。

門前 驚異的な躍進を遂げているのが、中国です。AIのトップカンファレンスであるAAAI(米国人工知能会議)では、2019年にはAI論文の投稿数、採録数で中国が米国を抜いてトップになり、2021年の最優秀論文は北京航空航天大学とカリフォルニア大学バークレー校、その他の研究機関との共著論文でした。

 中国は2030年までにAIの理論、技術、応用のすべてで世界トップ水準に到達することを目指しており、AIの中心的産業規模を1兆元(約20兆円)、関連産業規模を10兆元(約200兆円)に拡大する目標を掲げています。

 たとえば、バイドゥ(百度)はすでに深圳市などで自動運転タクシーのサービスを展開していますが、そのほかにオートXなど複数の企業が実証段階に入っていて、2030年までに中国の自動車の50%が自動運転を実現し、「レベル4」「レベル5」の車両は8000万台前後に達すると予測されています。

 日本ではこうしたことがメディアでほとんど報道されないので、いまだに中国製品は「安かろう悪かろう」だと思っている人がいます。しかし、AIやデジタルの研究、AIの社会実装では、中国が日本のはるかに先を行っていると思います。日本はその現実を受け止め、もっと危機感を持つべきだと思います。

 日本の経営者世代にとって、中国の現実は想像すらできないかもしれません。それは国の違いだけでなく、世代の違いが大きく影響しているのではないかというのが私の仮説です。

 中国ではビジネスも消費も若い世代の世界観で動いています。たとえば、中国ではZ世代だけで約2億5000万人の規模があり、日本の総人口のほぼ2倍です。消費パワーがあるだけでなく、激しい競争を勝ち抜いた優秀な人材が多く、AIの研究や応用もその世代が引っ張っています。

門前 中国のエリート層は本当に若くて優秀、そして勢いがあると思います。

 日本の50代から上の人たちは、20〜30代が何を考えているかわからない。それが中国で起こっていることを理解できないことと通底しているのではないでしょうか。

 日本の産業競争力を復活させられるかは、20〜30代が社会を動かせるかどうかにかかっていると私は思います。ですから、日本の経営者は若い人たちの意見にもっと耳を傾けるべきだし、スタートアップとのオープンイノベーションを含めて若手人材をどんどん登用すべきだと思います。

夢なき者に成功なし

 Machine Learning 15minutes!のこれからの活動について、どんな抱負をお持ちですか。

門前 私の座右の銘は、吉田松陰先生の次の言葉です。

夢なき者に理想なし、
理想なき者に計画なし、
計画なき者に実行なし、
実行なき者に成功なし、
ゆえに、夢なき者に成功なし

 AIの社会実装を進め、国際競争力を高めて、日本を豊かにすることが私の夢であり、志です。日本の社会をよくするようなAIの未来について、Machine Learning 15minutes!でこれからも語り合っていきたいですし、AIコミュニティをもっと盛り上げて、日本が米中に負けないAI立国になっていく力添えをしたいと考えています。

 AIは難しいとか、専門家が扱うものだと思われがちですが、本当に社会に役立てていくには、ユーザー側の人たちの参画が欠かせません。私は、Machine Learning 15minutes!のようなコミュニティが、AIのすそ野を広げるパブリックな場として発展していくことに期待していますし、そこに日本の未来があるのではないかと思っています。

 そうしたパブリックな場で、AIの研究や技術開発に携わる人たちと、実際に課題を抱えている人たちが出会うことで、社会のためにAIを役立てていく明確なシナリオができ上がっていくはずです。

門前 AIのすそ野を広げるには、Machine Learning 15minutes!だけでは限界があるので、ほかのAIコミュニティとも活発に交流したいですし、新しいコミュニティがどんどんできてほしいですね。コミュニティ同士の相互作用でAIの社会実装を進めていけたらと思います。