人工知能(AI)に関する最新の論文や先進的な応用事例などについて情報交換を行い、オープンに議論する場として、AIコミュニティが注目されている。Deloitte AI Institute(*1)所長の森正弥氏は、こうしたコミュニティがパブリックな場として発展していくことが、AIの社会実装を推進することになると見ている。

そこで、シリーズ対談「Deloitte AI Ignition」の第8回は、カジュアルトークイベント「Machine Learning 15minutes!」の開催を通じて3000人を超えるコミュニティを形成している門前一馬氏を迎え、AIコミュニティが持つポテンシャルについて語り合った。

最先端の論文や実装事例を勉強したくて
「Machine Learning 15minutes!」を始めた

 門前さんが主催する「Machine Learning 15minutes!」で私もプレゼンテーションさせていただいたことがありますが、知り合いからすぐに「Machine Learning 15minutes!のプレゼン、見ましたよ」と連絡がありました。いまやAI業界で知らない人はいないくらいのコミュニティになっている感じがありますが、何人くらい参加されていますか。

門前 登録者が約3300人です。月1回のペースで開催していて、2022年11月で通算72回になりました。AIに関する15分以内のLT(Lightning Talks:短いプレゼンテーション)を毎回7〜8人に行ってもらい、LT終了後に懇親会を開いています。

 登壇者は第一線で活躍している人ばかりですね。

門前 最先端のAI研究者やデータサイエンティスト、AIスタートアップの経営者、実際にAIの社会実装に取り組んでいるビジネスパーソン、デジタル著作権に精通した弁護士など多彩な方々が、登壇してくださっています。

 きっかけは、私自身が最先端の論文やAIの社会実装事例を勉強したいと思って始めたのですが、参加のハードルを低くしているので、AIについてこれから勉強したいという人から専門的な研究者まで、多種多様な方々が参加してくださっていて、そういう人たちが、AIについて気兼ねなく情報交換できるのがMachine Learning 15minutes!の特徴だと思います。

 そもそも門前さんがAIに関わるようになったきっかけは何ですか。

門前 私はもともとウェブデザイナー、アートディレクターとして活動していて、その後、ITアウトソーシング会社で事業開発や営業戦略に携わりました。40代になった頃、「この先の人生を賭けるような仕事がしてみたい」と考えるようになり、たまたま出会ったのが、2013年に日本語版が発行された『機械との競争』という本でした。

 MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究者が、未来の技術進化と人間の労働について予測した本なのですが、それを読んで人生を賭けるならAI関連の仕事だと思いました。それでAIスタートアップに転職しました。

 そのスタートアップでAIの知識をいろいろと得ることができたのですが、残念ながら事業としてはうまくいかず、退職することになり、デジタルクリエイターの派遣会社に正社員として就職しました。そこでは、オンライン証券会社に常駐派遣され、アプリ開発などを担当していましたが、仕事が終わってから「全脳アーキテクチャ若手の会」や「全脳アーキテクチャ・イニシアティブ」というAIコミュニティに参加して、プライベートでAIの勉強を続けました。

 「全脳アーキテクチャ・イニシアティブ」は、日本の中でも重要なAIコミュニティですね。

門前 ドワンゴ人工知能研究所所長などを務められた山川宏先生が代表で、人間の脳全体のアーキテクチャーに学んで、人間のような汎用AIを研究したり、勉強会を開催されたりしています。

 そこから派生した若手向けのコミュニティが「全脳アーキテクチャ若手の会」で、その運営を手伝うようになったことで、山川先生とつながることができ、「全脳アーキテクチャ・イニシアティブ」の運営も手伝うことになって、人的ネットワークがずいぶん広がりました。そこで、AIをビジネスで活用するための勉強会を開きたい、その教室の最前列でAIを学びたいと思って始めたのが、Machine Learning 15minutes!です。