サマリー:「イノベーションを創出しないと、国も企業も衰退し、やがて死に絶える」と警鐘を鳴らす早稲田大学大学院の入山章栄教授とマクニカの原一将代表取締役社長がオープンイノベーションについて語リ合う。

イノベーションを起こすには、共創=オープンイノベーションが必要だといわれるが、なぜ、それがうまくいかないのか。共創には「共感」が必要であり、パーパスへの共感を起点としたエコシステムの形成が不可欠となるからだ。マクニカは「技と知」のつなぎ手として、共感エコシステムの事例を多数持つ。進化するマクニカについて紹介する3回シリーズの最終回は、早稲田大学大学院教授の入山章栄氏をゲストに迎えてお届けする。

「価値の高い共創」には
パーパスへの共感が必要

「イノベーションを創出しないと、国も企業も衰退し、やがて死に絶えていく」。こう警鐘を鳴らすのは、早稲田大学大学院経営管理研究科教授の入山章栄氏だ。IMD(国際経営開発研究所)の『世界競争力年鑑』によると日本の国際競争力は、1992年の1位から2022年には34位と下降の一途をたどっている。

 言うまでもなく、イノベーションとは新しい価値をこの世に生み出すこと。価値提供を通じて社会に貢献し、結果として経済的リターンを上げることである。「日本は特許出願数で世界トップクラスの国ですが、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の取り組みやビッグデータ分析の活用では、先進国の中で後塵を拝しています。特許を取るだけではダメで、特許を価値に変換することが重要であり、そのためのツールの一つがデジタルです」と入山氏は話す。

 一方、イノベーションの創出には「共創」、すなわちオープンイノベーションが大事だともいわれる。協業や連携に留まらない「価値の高い共創」においては、「共感」が必要不可欠であるとマクニカの代表取締役社長、原一将氏は説く。

「新しい価値の創造に対する情熱や想い、志、あるいは強いリーダーシップを持った経営者が2社、3社と集まれば、ものすごいパワーになると思います。共感を持ったエコシステムをいかにつくっていけるかということが競争力の大きな源泉になると考えています」(原氏)

 では、何に共感するのか。「パーパスに共感し合うことが、共創につながる」と原氏は続ける。

 マクニカは創業50周年の節目を迎えた2022年2月にパーパス「変化の先頭に立ち、最先端のその先にある技と知を探索し、未来を描き“今”を創る。」を公表した。その制定に当たっては、一橋大学CFO教育研究センター長、名誉教授の伊藤邦雄氏をブレーンに招いて議論を重ねていった。

「社内のいろいろな方の意見ももちろん聞かれたそうですが、原社長が中心となってパーパスをつくったことは大いに評価できます。なかには、『部下につくらせています』という社長もいますが、言語道断です。パーパスは経営者みずからが腹落ちしている必要があるからです。パーパスをつくるだけでなく、パーパスを信じて、腹落ちして、共感して、やり抜くことが何より大事です」(入山氏)

 また入山氏は、パーパスの中に「技と知」という言葉が含まれている点がマクニカらしいと評価する。さらに「会社に大事なのは遠い未来を見ることと未来を創るために今、何をやるべきかという超長期と超短期の2つの視点。なのでパーパスにあるように“今を創る”が重要になってくるのです」と説く。

 これに対して原氏は、「我々はテクノロジー企業ですから、当然、技に徹底的にこだわり、そして、テクノロジーとインテリジェンスをつないで探索することで、そこから未来のトレンドが見えてくると信じています」と話す。