
日本企業の従業員エンゲージメントは世界最低水準で、新しいことへの挑戦意欲や変革意欲も低い。「VUCAの時代を生き抜くためには、BX(ビジネス変革)やDX(デジタル変革)だけでなく、従業員の成長意欲を引き出す「人財X(トランスフォーメーション)が求められている」と語るのは、B&DX代表取締役社長の安部慶喜氏だ。具体的な変革の方法論について聞いた。
人財の変革意欲の低さは世界でもトップレベル
VUCAの時代といわれる今日。政治・経済情勢や市場ニーズ、消費スタイルが目まぐるしく変化する中、企業には長年培った事業資産や成功パターンを打ち捨て、みずからの〝あり方〟を常に変革し続ける決断と努力が求められている。
だが、「その変革を担える人財が社内におらず、獲得しようにもできないことが、いまの日本企業にとって大きな問題です。経済産業省の発表によると、日本のCEOの55%は、事業創出やDX、企業風土改革等をリードできる変革人財がいないことが、最も大きな脅威であると考えています」。
そう語るのは、BXやDXなど、企業のさまざまな変革を支援するコンサルティング会社、B&DX代表取締役社長の安部慶喜氏である。

代表取締役社長
安部慶喜氏
YOSHINOBU ABE
そもそも日本の人財は、海外の人財に比べて変革や挑戦に対する意欲が低い。これが人財不足の大きな要因となっているようだ。
「あまり知られていませんが、日本企業の従業員エンゲージメントは世界最低水準ですし、現在の勤務先で働き続けたいという人の割合もAPEC諸国の中で日本が最下位です。かといって、転職や独立・起業を志向する人が他の国・地域よりも多いわけではなく、自己啓発を行っていない人の割合は断トツで高い。つまり、現状の環境の中で漫然とやり過ごしている人が多く、新しいことへの挑戦意欲、変革意欲が著しく低いのです」
そうしたやる気のなさは、本人たちの問題ばかりとはいえない。頑張っても報われない評価制度や報酬体系などで、人財の成長意欲を削いできた企業側の責任も大きいといえるだろう。
「こうした過去の失敗例への反省を踏まえ、メンバーシップ型からジョブ型へと雇用形態を転換する企業が増えているのもご承知の通りです。従業員の成果に合わせて処遇の差をつけたい、戦略的なポジションを任せられる人財の採用力を強化したいといったことが主な目的ですが、必ずしもうまくいっていない企業が多いのが実情です」と安部氏は語る。
「心」「技」「体」の3つで人財を変革する
たとえば製造業のA社は、職務に対する成果で評価する「ジョブ基準」の評価制度を導入したが、現場の抵抗によって報酬に差をつけられなかったことから、従業員のやる気改善にはつながらなかった。また、ある金融機関は、職務レベルと報酬を一致させる制度改革を行ったが、レベルに合致しない人財を降格して報酬を減らすことができず、結局、年功序列の報酬体系から抜け出せていない。
安部氏は、「形骸化さえしなければジョブ型も有効な手段ですが、従業員のエンゲージメントを高め、成長意欲を引き出すためには、より本質的な部分から改革を推し進める必要があると考えます」と語る。