カーボンニュートラルやSDGsの達成にも不可欠な
ブロックチェーン
――Web3.0の基盤技術であるブロックチェーンについては、今後どのようなユースケースが想定されますか。
赤星 サプライチェーントレーサビリティ(追跡可能性)が第一に挙げられます。2050年のカーボンニュートラル実現に向けて世界は大きく舵を切っていますし、2030年をゴールとしたSDGs(持続可能な開発目標)の達成への社会的関心も高まる中で、その実現方法が求められています。国連開発計画(UNDP)がブロックチェーンのSDGsへの適用領域を具体的に示している通り、透明性と改ざんへの耐性が高く、運用コストも低いブロックチェーンは、国や産業をまたがってデータを共有するのに適した技術です。
デロイト トーマツ グループはJICA(国際協力機構)などと共同で、児童労働問題を考慮したカカオ豆のトレーサビリティ構築に取り組み、実証実験を行いました。今後は人権だけでなく、生産地証明やカーボンフットプリントなどについても、サプライチェーン全体でその透明性の向上やデータ蓄積が求められ、ブロックチェーンの活用余地が大きいといえます。
田口 企業がブロックチェーンを活用するうえでは、「自社の事業」×「ブロックチェーン」でどのような価値提供が可能かという視点を持つことが重要です。つまり、ブロックチェーンによっていままで以上に顧客ニーズをとらえ、提供価値を拡大させる方法はないかを考えることです。

Yu Taguchi
モニター デロイト シニアマネジャー
たとえば、ブロックチェーン上で契約を自動的に実行するスマートコントラクトで事務処理コストや契約コストを削減し、顧客に対して価格面での還元を図る。あるいは、映画やアニメなど自社コンテンツの所有権をSTO(セキュリティトークン)と呼ばれるデジタル証券で販売し、コンテンツ開発費を調達するとともにファンとして囲い込むといったユースケースが挙げられます。
こういったユースケースを実現するためには、必ず不足するケイパビリティが生じます。そのため、繰り返しになりますが、必要なケイパビリティを持つ企業との連携の仕方、すなわち、業務提携で足りるのか、資本提携が必要か、M&Aを視野に入れるべきか、といった検討が必須となります。たとえば、先述のユースケースであれば、トークン発行のプラットフォームを持つ企業と資本提携し、協業を通じて投資先の有望度を測りながら、将来的な自社の事業ポートフォリオへの取り込みを検討していく、といった具合です。
――金融や信用保証のデジタル化、スマート化のトレンドについて伺ってきましたが、こうした潮流に企業はどう備えるべきでしょうか。
田口 やはりシナリオプランニングが大事だと思います。特に金融の文脈においてはWeb3.0のテクノロジーによって不確実性の高い事業環境となっているため、企業の先行きについて複数のシナリオが想定されます。いずれのシナリオについても、それが現実のものとなった場合に、自社にどのような影響があるのかを見極めながら、あらかじめ打ち手を仕込んでおくことです。
まずは小さく始めて、いろいろなところにリソースを張っておいて、変化に応じて強化すべきところを絞り込むといった、柔軟で迅速な対応がいまの時代には求められています。既存のコア事業にこだわりすぎず、新たなコア事業の創出も視野に入れて、幅広く、いろいろな領域を見ていくことが重要です。
赤星 まず一歩を踏み出すことが大事だと思います。勝ち筋がありそうなシナリオやユースケースが描けた時には、それを実行して、フィードバックを得ながら素早く修正するというサイクルをスピーディに回していくのです。
一方、NFTなどWeb3.0の領域は、国内では法整備が不十分な点もあり、たとえば自社発行の保有トークンが時価評価課税対象となり、負担が重いという問題が起き、優秀なエンジニアや起業家が海外に流出する事態を招いた事例もあります。
本来は民間企業がいろいろなトライアルをして、それを国もサポートすることが望ましいところです。両者を有機的に結合することが必要で、我々のようなプロフェッショナルファームが、第三者としての立ち位置でその役割を担うべきだと考えています。
そのために、エコシステムの真ん中で関係者をコーディネートしていくことに積極的に取り組みたいと思いますし、技術や制度を相談するための環境なども使いながら、国に対してフィードバックしていくことにも取り組んでいきます。