ボブ・ライオンズを知る者で、彼を激賞しない者はいない。順風満帆の幹部社員とはまさに彼のことで、ある大企業の要職に就いている。その上司が等しく認めるように、攻撃的精神に富む男で、周囲を引きずりまわすようにして仕事をやってのけるだけの才覚も備えている。

 仕事ぶりは苛烈、それも他を圧倒するペースですすめる。自らを仮借なく仕事に駆りたてるタイプである。入社して10年も経たぬのに、すでに責任あるポストはいくつかこなしている。

 ライオンズはスポーツマンとしても常に抜きんでる存在であった。水泳、狩猟、ゴルフ、テニスなど自ら自慢するほどの腕であった。大学時代にはフットボールと野球の選手にもなっている。週末ともなると、自宅の改造、修理に取り組む。そうでないときは、狩猟に出かけるか、気分を変える意味で別のスポーツに手を出してみたりする。どんなときにも身体をいじめぬかねば気が済まぬ、といった風であった。

 かといって、仕事、仕事の人生というわけでもない。教会やボーイスカウトの活動には意欲的である。夫人は陽気で人付き合いがうまく、夫婦そろってパーティ、各種社会活動へも進んで顔を出している。3人の子供と過ごす時間も、夫婦にとっては欠かせぬものであった。

 入社9年目の早春、ボブ・ライオンズは直接の上司である副社長にこう切りだした――「少々のんびりムードなんです。大型プロジェクトはほとんど片付いています。新社屋計画も完了、4年前はファール、ファールの連続だったのが、今ではオール・ヒットと万全です。デスクを愛馬に窓からの景色を眺める――そういうのは肌に合わないんです。とにかく、動きたい」――。

 それから1ヵ月して、ライオンズに新たな事業計画がまかされた。彼はいつもの熱気でまっしぐらに飛びこんでいった。以前の快活で陽気な男に戻ったようにみえた。計画に取り組んでから6ヵ月も経つ頃には、すでにプロジェクトのころがし方をのみこんでいた。やがて、ライオンズは副社長の所に出かけていき、プロジェクトがすっかり完了したことを報告した。