
1997年創業のコーチ・エィは、日本におけるコーチングのパイオニア。100人以上のコーチが社員として在籍し、海外の一流コーチとの交流を通じて最先端のコーチングを取り入れ、提供する。クライアントの約8割を上場企業が占め、高いリピート率を誇る。個人の人材開発と同時に、「対話」を通して組織を変革し、イノベーションを加速させる独自の「システミック・コーチング」が特徴だ。
重要なキーワードは「主体化」と「主体化の連鎖」
ここ数年、トップや経営層が受けるエグゼクティブコーチングに注目が集まる。どんな背景があるのだろうか。コーチ・エィ代表取締役社長の鈴木義幸氏は次のように話す。
「まず、経営環境が急激に変わる中、どんな方向にどんな能力を高めたらいいのか。もはや、統計や成功体験、あるいはフィードバックシステムなどで答えが出せるほど、物事は単純ではないという背景があります。コーチと対話を重ね、自分や組織の何を変える必要があるのかをそのつど見つけ出していくことが求められています」
コーチ・エィのサービスとして独自性が強く表れているのが、エグゼクティブを起点として組織に変革の波を起こす「システミック・コーチング」だ。鈴木氏は自社が価値を置いている独自の取り組みについて次のように話す。
「個人の人材開発と同時に、組織全体を開発していく取り組みがシステミック・コーチングです。重要なキーワードが『主体化』と『主体化の連鎖』。ただ言われたことをやっている状態を『隷属化』と呼ぶのに対して、自身のパーパスと組織のパーパスが接続し、自分なりの意味づけができている状態を主体化と呼んでいます。主体化している人は、自分から能動的に周囲に働きかける傾向があります。この主体化した人同士の対話が主体化の連鎖を生み、組織に大きな変革の波を起こす要因となります」
鈴木氏は、社内で交わされるコミュニケーションが変わらない限り、組織の変化は起こらないという。その鍵となるのが「対話」だ。対話と会話をそれぞれ次のように定義する。会話は「今日は寒いですね」「本当ですね」などと言葉を交わし、共感を育むことが主な目的。これに対して対話は、それぞれが培ってきた経験や解釈、価値観をもとに「違い」を持ち込み、互いの「違い」を顕在化させながら、新しい「意味」「理解」「解釈」を一緒に創り出す双方向のコミュニケーションである。
「対話で重要なのが『問い』です。自分と相手の間に問いが共有され、その問いに対してそれぞれが自分の考えを述べる。相手と自分の考えが異なる時、その背景について関心を持って再び問いかける。こうしたやり取りの結果、考えの違いが顕在化し、新しい意味や理解、解釈が生まれます」
リーダーが積極的に対話を起こすことで、周囲を主体化の連鎖に誘い、次世代のリーダーを育成しながら、組織の変革をもたらす。こうした対話型の組織開発を実践するための理論やノウハウをしっかりと構築しているのも、同社が長年にわたってコーチングや組織変革の実績を積み上げてきた成果といえよう。同社では、国際コーチング連盟の認定を受けたコーチ・トレーニング・プログラムを1997年の創業時から、法人・個人向けに提供している。コーチを一から育成できる知識と技術、豊富な経験を持つのが強みの一つだ。日本に留まらず、米国やアジア圏を中心とした海外の顧客にも現地語でサービスを提供している。現在、100人以上のコーチを社員として抱えるが、そのメリットについて、鈴木氏は「役員および上級管理職20人以上を対象とするような大型案件にもチームで対応できること」と話す。