サマリー:クラウド人事労務ソフトを開発・提供するSmartHRのCEO、芹澤雅人氏とシンクワイア社長でエグゼクティブコーチの粟津恭一郎氏が、経営層を対象としたエグゼクティブコーチングの有効性や将来性等について語り合った。

CEO就任時、「成長の必要」を感じて、みずからエグゼクティブコーチングを受け始めたという、クラウド人事労務ソフトを開発・提供するSmartHRのCEO、芹澤雅人氏とシンクワイア社長でエグゼクティブコーチの粟津恭一郎氏が、経営陣にとってコーチングがなぜ有効なのか、どのような効果があり、企業にどのような影響があるのかを語り合った。

経営は「思い込み」との戦い

 ──いま、なぜ、エグゼクティブコーチングに興味を持つ経営者が増えているのでしょうか。 

粟津 経営者の最大の敵は「思い込み」です。コロナ禍で「過去の成功体験に基づいた意思決定にはリスクがある」と気づいた経営者が増えたのではないでしょうか。弊社は経営層のみを対象としたエグゼクティブコーチングを提供していますが、エグゼクティブコーチングを受けるクライアントの数は前年比2倍以上のペースで増えています。

芹澤 私はエンジニア出身で、2022年1月にCTO(最高技術責任者)からCEOに就任しました。変化の激しい市場の中でSmartHRをさらに成長させ続けるには、私自身も変化・成長し続けなければなりません。そのためにはエグゼクティブコーチングが有効ではないかと考えました。

 昨今のマネジメントスタイルは、コーチングをベースとしたものへと急速に変化しています。私自身がコーチングを受けることで、コーチングの手法を自社の組織に取り入れるヒントを得られるのではないかとも考えました。

SmartHR
代表取締役CEO
芹澤雅人氏
MASATO SERIZAWA

粟津 人的資本経営に注目が集まる中、社員の能力開発だけでなく「経営層の能力開発」にも積極的に投資する企業が増えています。エグゼクティブコーチングはその選択肢の一つとなっているようです。

──エグゼクティブコーチングを導入した企業では、何を「成果」として判断しているのでしょうか。 

粟津 シンクワイアのエグゼクティブコーチングの成果は「経営能力の向上」です。「経営能力」は経営者の「認知」と深く関係しています。人は誰でも物事を考える時に自問自答しますが、自分でつくる質問はワンパターンなものになりやすく、結果として認知の範囲が限定されてしまっています。「質問の範囲が認知の範囲」となっているともいえるでしょう。同じ環境にいると質問も似てきますから、社内の役員同士で質問をし合っても新たな質問を手に入れるのは容易ではありません。そこで、「認知の限界」を突破するために、経営者に対する「質問のプロ」であるエグゼクティブコーチの力を借りるのです。弊社のエグゼクティブコーチングを受けた経営者は、しばしば、初回の1時間のセッションだけで「自分が偏った範囲でものを見ていたことに驚いた」「全く新しい視点を手に入れた」とおっしゃいます。認知の範囲を拡大していくことは、経営能力の向上に大きな役割を果たすのです。 

芹澤 私の場合、ついつい自分のリミットを自分で決めてしまうので、それを取り除くために「ストレッチさせるような質問をください」とお願いしています。CEOとして何を学べばよいのか、ほかの経営者はどういう勉強をし、どんな習慣があるかなど、質問を通じて示唆をもらい、自発的にそれにチャレンジするよう導かれています。 

 5W1Hや「なぜなぜ分析」を自分に課しても、一人でやると途中で止まってしまう。十分に考えたと思えても、その先にまだ考えられる余地があり、そこまで導かれる。筋トレのパーソナルトレーナーのように“限界”を超えるまで追い込んでもらえるのがありがたいです。

粟津 芹澤さんがCEOをされているSmartHRは、ARR(年間定期収益)だけで見ても前年比3倍を2年間続け、さらに前年比2倍を3年間続けることに成功したいわゆる「T2D3」達成企業です。SmartHRのような急成長企業の優秀な経営者が、次々とエグゼクティブコーチを使うようになったのも最近の傾向の一つです。