データを経営資本として利活用するための戦略とガバナンス
――データ利活用が思ったように進まない企業の現場では、どのような問題が発生しているのでしょうか。
染谷 先ほど申し上げた通り、データの民主化を促進するツールは揃ってきたのですが、肝心のデータがどこにあるのかわからないという問題が多くの現場で生じています。その理由は大きく2つ挙げられます。
まず根本的な理由として、多くの企業においてデータは副産物でしかないということです。業務の推進や効率化を目的にITを導入し、その結果、デジタルデータがどんどん蓄積されていますが、もともと分析や活用を目的にデータをためているわけではありませんので、業務によってコード体系が違っていたり、入出力の形式が違っていたりして、そのままでは使い物にならないのです。
それなら、元データを集めようと思うと、業務ごとにシステムが異なり、違うデータベースに保存されているので、どんなデータがどこにあるのか、どんな頻度で更新されていて、どうやったら手に入るのか、その全体像を誰も把握できていないということが往々にしてあります。これが2つ目の理由です。

Toyohiro Sometani
トーマツ
パートナー リスクアドバイザリー事業本部
デロイトアナリティクス
本来であれば、図書館司書のようなデータのライブラリアンがいて、会社全体のデータをきちんと整理、保管して、社内からリクエストがあればすぐに取り出せるようにしておかないと、ビッグデータを会社の資産として活かすことはできません。最近、一部の企業がデータ利活用の最高責任者であるCDO(チーフデータオフィサー)を任命するようになりましたが、ほとんどの企業ではIT部門の仕事の一つとなっています。しかし、IT部門が片手間でこなせるような仕事ではありません。
このほか、最近よく見られる問題として、ツールやプラットフォームの乱立があります。データの民主化を支えるツールやクラウドサービスが増えてきたがゆえの問題なのですが、現場主導でのデータ利活用に取り組み始めた結果、部門によってツールがばらばら、使っているクラウドも別々という企業が散見されます。そういう状態ですと、会社全体としてのデータ利活用の効率が落ちますし、投資効果も上がりません。
――発生している問題とその原因は理解できました。では、そうした問題を解決するにはどうすればいいのでしょうか。
貞本 ポイントはいくつかありますが、まずはデータドリブン経営の実現に向けたデータ利活用戦略を立てることです。データでどのような新しい価値を創出していくのか、どういう意思決定にデータを活用するのか、そのために必須となるデータは何かといったことを経営層がよく議論する必要があります。
ビジネス部門主導、あるいは人事や財務といった機能部門主導でデータ利活用を進める場合も同様です。これまでIT導入の副産物でしかなかったデータを重要な経営資本として活用するためには、部門トップがオーナーシップを発揮して戦略を立案しなくてはなりません。これまでIT部門がデータを管理してきたからといって、IT部門任せにしていては、ビジネスで価値を生むためのデータ利活用戦略のアイデアは出てきません。

Yasuhiro Sadamoto
トーマツ
パートナー リスクアドバイザリー事業本部
デジタルガバナンス
戦略を設定したうえで、次に取り組むべきはデータガバナンスです。ITの投資効果を高め、リスクを抑えて最適な運用を行うためにITガバナンスが必要なのと同様に、データ利活用を推進するためには、データガバナンスが欠かせません。データ利活用とデータガバナンスは車の両輪のようなもので、どちらかが欠けるとデータドリブン経営は前に進まないのです。
データガバナンスとは、データ利活用戦略を実行していくためのデータ品質の維持・向上、データ管理やコンプライアンスなどのルール整備、データ標準化、(データの属性や保存場所、アクセス権など)メタデータの整備、および実行の監督・徹底などを意味します。