小林 交流創造とは、「つなぐ・つなげる」ことによるイノベーションから生まれると考えており、そのためのチャレンジの一つが新規事業開発だと位置づけています。

 私たちは、パートナーとの共創によってイノベーションを生み出していくと考えています。そこで、さまざまな事業の立ち上げやCXに関して豊富な経験と知見をお持ちのSTUDIO ZEROに、「JTB Tourism Lab」(以下「ツーリズムラボ」)のアドバイザーをお願いしたわけです。

小林美江子
Mieko Kobayashi
JTB ツーリズム事業本部
執行役員 CX戦略担当 事業改革推進部長

新規事業をクイックに実現するための「ツーリズムラボ」

仁科 ツーリズム事業本部の発足と同じ2021年に、私たちプレイドも事業開発組織としてSTUDIO ZEROを立ち上げました。STUDIO ZEROは大企業や中小企業、スタートアップ、行政・公的機関などのパートナーとともに、顧客視点での産業変革、地域創生を目指しており、御社のビジョンに深く共感しながら新規事業開発を伴走支援させていただいているところです。

 あらためて、「ツーリズムラボ」についてご紹介いただけますか。

小林 当社には以前から、新規事業の社内公募制度として「JUMP!!!」(ジャンプ!!!)があります。このJUMP!!!から生まれ、直近で事業化を進めているのは、お客様のご自宅という日常空間で、非日常な食事体験をトータルプロデュースする「Living Auberge」(リビングオーベルジュ)です。

 JUMP!!!の公募は年に1回で、事業化の予算規模も大きいためハードルが高いと感じる社員もいます。そこで、気軽に応募でき、クイックに新商品・サービス、新規事業を具現化する取り組みとして始めたのが、「ツーリズムラボ」です。こちらは、通年で社員のアイデアを公募しており、年間約700件の応募があります。

 JUMP!!!も「ツーリズムラボ」も、自律創造型の取り組みで、社員の意思による公募制です。特に「ツーリズムラボ」には社内の各部署から主体的に集まった約70人のメンター組織があり、このメンバーと事務局である事業改革推進部、そしてSTUDIO ZEROがいっしょになって、集まったアイデアの評価、具現化へ向けたアイデアの磨き上げ(仮説設計や市場調査など)の各プロセスで、起案者へのサポートを行っています。

 仁科さんご自身にも「ツーリズムラボ」を日頃からご支援いただいていますが、この活動について率直にどんな印象をお持ちですか。

仁科 日々の業務が忙しい中でも、全国の事業部・支店を含めてさまざまな部署の人たちが、広く応募していらっしゃるのは、アイデア提案者に対する体験設計が素晴らしいからだと感じています。

 まず応募前に関しては、事業改革推進部の事務局メンバーみずからセミナー開催で全国に足を運んだり、オンラインで説明会を開いたりして、顧客起点での事業開発の基本テクニックを伝えていらっしゃる。また、管理職向けには部下が新規事業開発に参加しやすい環境づくりについて説明会を開いておられます。これが、事業開発のムーブメントを生み出していると思います。

仁科 奏
So Nishina
プレイド
STUDIO ZERO代表

 一方、応募後については、事務局メンバーが「私たちはこんなふうに失敗したから、こうしたほうがいいよ」とか、「こうすればもっと早く実現化できるんじゃないか」と、応募者一人ひとりに細かくフィードバックしています。たとえば、新事業のアイデアが他の部署にも関係してくる場合は、関係先の管理職からコメントをもらって、「この点をクリアして再検討すれば、実現可能性が高まるよ」とフィードバックするなど、対応が実にきめ細かい。

 私はいろいろな会社の新規事業開発を支援していますが、公募型で実施する場合、活動が尻すぼみになりがちです。それは応募してもほとんどの人にとって進め方のフィードバックをもらえる機会が少なく、いっしょに事業アイデアを検証してくれる仲間が社内に少ないからです。その点、「ツーリズムラボ」では、応募者全員にコメントを返していますし、アイデアを実現するための後押しもしています。

 さらにつけ加えると、事業アイデアの起案者たちもアイデアの評価や磨き上げの段階でいろいろな気づきを得ていますし、日頃の業務では直接関わることがない他部署の人たちといっしょに活動することで、新たな人的ネットワークが形成されています。起案者たちにとって優れた体験価値を提供できていることが大きいと思います。