地域医療支援病院の役割の一つに、医療機器の共同利用の実施があります。具体的には、かかりつけ医の患者さんを我々の病院が持っている医療機器で診断して、その診断結果をかかりつけ医にお返しするといったことです。

 大分岡病院ではPACS(医療用画像管理システム)を導入しており、電子カルテ情報を共有している一部の地域クリニックには、放射線医の診断結果と画像データを当日配信しています。しかし、そういう情報共有ができているのは約300の提携先のうち、まだ20ほどです。患者CRMを地域クリニックと共同利用できるようになれば、先ほど言ったように緊密でスピーディな連携を図ることが可能になります。

北原 そうした地域クリニックとの共同利用を含めて、患者CRMをどう発展させていきたいとお考えですか。

 いまの電子カルテ情報からは、患者さん一人ひとりの思いや希望はわかりません。病歴や治療歴など患者さんのヒストリーとそうした思いの部分をリンクさせた仕組みがあれば、より患者中心の医療に近づけると思います。

北原 その点については我々も非常に重要だと思っていまして、患者CRMプロジェクトの中でも具体的な検討を進めています。プロジェクトの分科会には敬和会の職員の方々だけでなく、外部の医療機関、介護支援事業所、地域包括支援センターの方々にも参加していただき、患者さんとそのご家族からのヒアリングも行っています。

 患者さんの声をしっかり聞くことができるかどうか。それが患者CRMを成功させる大きなポイントだと思います。

施設でのケアから在宅医療、コミュニティでのケアへ

中村 敬和会が目指している医療の将来像を実現していくのは長い道のりだと思いますが、今後の課題や展望をお聞かせください。

 病院は設備産業で、バランスシートを見ると有形資産がものすごく大きいんです。建物を建て、さまざまな設備を入れて、それらを何年もかけて減価償却していきます。これから急速に人口減少が進むことを考えると、そうした設備産業的な病院のあり方が持続可能なのかという疑問があります。

 患者さんとしても、病院や介護施設に入らず、在宅で治療や介護が受けられるならそれに越したことはありません。在宅または居宅に近いところで、より高度な医療を提供するにはどうすればいいのか。これからの時代はそれを考える必要があると思います。

中村 投資の優先順位もおのずと変わっていくということでしょうか。

 建物や機械よりも、ソフトウェアなどの無形資産に比重を置くことになるのではないでしょうか。敬和会ヘルスケア・スマートリンクとして膨大なデータを持っていますので、そのデータを解析して新しい医療サービスですとか、業務効率化に役立てていく。そういう観点からも、医療は大きな転換点にあると思います。

 欧州では、精神疾患や認知症の患者さんを施設に入れるのではなく、コミュニティでケアしていくのが大きな流れになっています。

北原 コミュニティの中でいろいろな人たちが連携しながら患者さんをケアするためにも、デジタルの力をもっと活用することが必要ですね。

 人口減少の点でいうと、大分のような地方都市は影響がより深刻です。敬和会では数年前、国際医療の拠点として東京都内に敬和国際医院を開設しました。今後、患者CRMのようなデジタル基盤を活用していけば、国際医療だけでなく東京で在宅医療、在宅看護などのサービスを展開できる可能性もあります。

北原 日本全体で医療資源を有効活用して、地域医療を支えていくことを考えなくてはならない時代になったと思います。そうした中で、敬和会のように先進的な取り組みを進めている医療法人が、地域を超えたサービス展開を検討されていることは非常に意義深いことです。

 我々デロイトも日本の暮らしを支える次世代のヘルスケアを構築しなくてはならないという使命感を持って日々邁進しています。敬和会とのプロジェクトを通じて未来のヘルスケアに貢献していきたいと思います。