ファイナンス人材を派遣して、縦割り組織に横串を通す
鉢村 私はCFOとして財務、経理、リスクマネジメント、IR(投資家向け広報)を管掌しています。それらを合わせると480人ほどの総合職がいますが、本社の人員はなるべくスリム化して、事業の現場に近いところに人を送り出してきました。
目的はいくつかありますが、一つは縦割りの組織に横串を通すことです。総合商社は事業部ごとの縦割りが強いので、ファイナンスなどの職能組織が横串を通す役割を担っています。
当社は1997年からディビジョンカンパニー制を採用しており、各カンパニープレジデントの下にいるディビジョンCFOや経理部長は本社のファイナンス組織から派遣しています。連結している会社は270社ほどありますが、それらの会社の多くにも人を派遣しています。
もう一つの目的は、近藤さんが先ほど触れたビジネスパートナーとしての役割を果たすことです。各ディビジョンカンパニーやグループ会社はいろいろな事業に投資しており、成長のためのM&A(合併・買収)も増えています。投資先を適切に経営管理したり、M&Aの際のデューデリジェンス(事業や会社の精査・評価)を行ったりするのにファイナンスの専門家が欠かせません。本社から人を送ることで、派遣先の事業部門の中でファイナンス知識を持った人材を育てる意味もあります。
さらに、ファイナンス人材としてマルチスキルを身につけさせること、事業の現場を経験させることも目的の一つです。本社とディビジョンカンパニー、グループ会社をローテーションしながら、財務、経理、リスクマネジメントなど複数のスキルを身につけさせるようにしています。事業部門に行けば、経営企画系の役割を求められることもありますので、ファイナンス以外の知識や判断力を磨くこともできます。ですから、なるべく若いうちから本社の外に出すようにしています。

Tsuyoshi Hachimura
伊藤忠商事
代表取締役 副社長執行役員 CFO
全般的に言って、ファイナンス組織やファイナンス人材に求められるスキルやカバレッジは広がっています。それは、ファイナンス以外でも同じことで、たとえば営業系の人材でも上にいけばいくほどファイナンス知識が必要になります。ましてや、カンパニープレジデントや本社のCxOは、自分の担当事業や職務範囲以外にも知識と関心を持っていないと務まりません。
米国などではCFOを経てCEOになる人が多いですが、それはCFOのポジションが登竜門になっているというよりも、職務上会社全体を見渡さなくてはならないし、CEOとペアで仕事をする機会が多いので、それが経営者としてのトレーニングになっているのだと思います。
近藤 御社のように事業の現場に近いところにファイナンス人材を配置したいと考える企業が増えています。一方、改革に当たってさまざまな仕組みをどうするかで悩んでいる企業が多いですね。たとえば、リポートライン。リポートラインを事業部門のトップにすると本社からの牽制機能が弱くなるし、CFOへのダイレクトリポートにすると事業部門に溶け込めず、ビジネスパートナーとしての役割を果たせないといった悩みです。