CFOアジェンダとして、AIに高い関心がある

近藤 CFOアジェンダとして、最近取り組んでいることはありますか。

鉢村 AIには非常に高い関心を持っています。人的資産が大事だからこそ、社員には無駄なことや付加価値の低い仕事はさせたくありません。たとえば、議事録や報告書の作成、翻訳業務などAIに下書きさせれば、大幅に効率化できる業務はたくさんあります。

 今年(2023年)5月に発表したのですが、当社では「生成AI研究ラボ」を立ち上げて、生成AIを業務改革や新規事業開発に活用するための技術実証を始めました。社外の専門家にも参加してもらって、データが流出したりしないようにセキュアな環境で、生成AIのビジネス活用を検証しています。

 社内の各セクションには、生成AIを使って何ができるかを若手中心で考えるよう、ミッションを与えています。デジタルネイティブの世代なら、役員や部課長が思いつかない素晴らしい活用法を考え出してくれると期待しています。

 冒頭に述べた通り、付加価値生産性を上げていかないと国も企業も先細りするだけなので、CFOアジェンダというよりも、経営者の危機意識としてテクノロジー活用への関心は高いですね。

近藤 最後に、CFOとして鉢村さんが大事にしていることを聞かせてください。

鉢村 やはり期待と信用は裏切りたくありません。投資家やお客様など社外に対して言ったこと、約束したことはきちんと守る。当社の経営がやっていることをシンプルに言えば、その繰り返しなんです。それが商人にとって一番大事な信用と信頼という資産を増やすことになります。

 できないことを言っても仕方ないし、弁解してもしょうがない。できることを約束して、きちんと守る。特に数字はどんなことがあっても、守らないといけない。正直、CFOを9年もやっていると、しんどい時もあります。でも、それが私の大事だと思っていることです。

信國 信頼と期待を裏切らない。これは、CFOだけではなく、すべてのビジネスパーソンにとって非常に意味のある言葉ではないでしょうか。

 本日は、CEOのパートナーとして企業のかじ取りを担うCFOの役割としての御社の取り組みや鉢村さん自身が大事にされていることをお伺いしました。ファイナンス人材を事業の現場に近いところに配置し多様な経験を積ませていくなど、ファイナンス組織を改革するうえで大変参考になる取り組みであると思います。株主還元の3つのバランスを意識した財務・資本戦略を実践することを前提とし、人的資産を大事にしていく。CFOとして強い信念を持ち激変する経営環境に立ち向かうことで、企業は成長を続けていくのだとあらためて感じました。本日はありがとうございました。

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