ブランド・ポジショニングのジレンマ

 これまでブランド・ポジショニングは、差別化のポイント──すなわち競合ブランドとの違いを表す便益に重点が置かれてきた。たとえば、アメリカ大手電機メーカーのメイタグならば信頼性、衣料用洗剤の〈タイド〉ならば漂白力、BMWなら優れた操作性といった具合である。

 消費者はほとんどの場合、差別化のポイントでブランドを認知するが、競合ブランドに対抗するにはこれだけでは十分でない。しかもポジショニングする際、多くのマネジャーたちは2つの重要な点を見過ごしがちである。

(1)ブランドの「フレーム・オブ・レファレンス」(他商品と比較・参照するためのフレームワーク)、つまりブランドがどのように機能し、また競合ブランドを含めて一般的にどのように位置づけられるのかを理解すること。

(2)競合商品と共通する機能や特徴を持たせること。これを我々は「ポイント・オブ・パリティ」(他の商品との価値が等価と見なされる理論上のポイント)と称する。

 したがって、競合ブランドと必然的に「五分五分」の状況が生じる。効果的なブランド・ポジショニングには、競合商品との差別化のみならず、ポイント・オブ・パリティについても考慮する必要がある。

 サンドイッチ・チェーンのサブウェイは2000年、ブランド・ポジショニングにおいてジレンマに陥った。広告代理店から、同社のサンドイッチを中心にダイエットして245ポンド(約110キログラム)も減量した22歳の男性をシンボルにして、健康的なファストフード・ブランドという側面をアピールするよう提案された。この広告代理店はこのダイエット成功談が消費者にうける自信があり、自腹を切ってテレビのスポット広告を制作したほどである。このCMは各地で放映され、売上高は平均して15%以上伸びた。

 この広告代理店は、サブウェイと他のファストフード店を差別化するポイント、すなわちヘルシーさにほぼ特化していた。しかしサブウェイ側は、ブランドが競争するうえでのフレーム・オブ・レファレンスと、それに沿ったポイント・オブ・パリティについて懸念していた。

 売上げが2年間横ばいだったため、ブランド・ポジショニングの再考には積極的だったものの、ファストフードのフレーム・オブ・レファレンスのなかで「味」は必須条件と考えていた。ファストフードを嗜好する主たる顧客層にすれば、ヘルシーかどうかよりも、味のほうが重要であると信じていたのである。