本書では、これまで明確に意識することのなかった3つの概念で、読者の意識のシフトを促しています。それが「インタラクティブ・データ」「コンサンプション・エコシステム/プロダクション・エコシステム」そして「デジタル顧客」です。

 まず、インタラクティブ・データですが、たとえば馴染みのあるPOS(販売時点情報管理)データなどがそうであるように、従来の販売データが単体または瞬間の履歴だったのとは異なり、アプリやウェブサイトを通じて得られる利用者の購買行動データを連続的に捕捉し続けることで得られる「リアルタイムかつ連続的な双方向のデータ」であり、それによって、さらに付加価値の高い体験を利用者に提供できます。

 アマゾンやグーグルなどは、インタラクティブ・データをフルに活用している企業の代表的存在であり、これまでのPOSなどでは得られなかった購入者の行動履歴や、そこから導き出されるインサイトが、膨大な価値を生み出すのです。

 インタラクティブ・データの視点で捉えると、これからデータを集める者と以前からデータを収集してきた者との間には、大きな差があります。連続的なデータは、たまればたまるほどより多くの価値を生み出すアセット(資産)になるため、より早くデータ収集を始めた者が先行者利益を得ることになります。この点を日本企業は強く意識するべきだと感じます。

 インタラクティブ・データを認識する以前の製品とデータの関係性では、製品がデータを支えるという考え方であり、あくまで製品が主役でした。しかし、インタラクティブ・データの概念の下では、データを活用するために製品があり、主従が逆転した状態になります。そう意識してみれば、確かに現在の私たちの生活は、すでにそのような状態になっています。スマートフォンなどはその最たるものでしょう。しかしながら、指摘されるまでパラダイムシフトが起きていることに、多くの人が気付けなかったのではないでしょうか。

 自社の製品とデータの関係性が入れ替わったら何が起こるのか。あらためて考えてみるべき時が来ていることをこの概念は示しています。

エコシステムの拡張が
新たなバリューチェーンを生む

──2番目に挙げられた概念「プロダクション・エコシステム/コンサンプション・エコシステム」はどのようなものでしょうか。

 企業の価値創出において、その源泉となるバリューチェーンをいかに高度化していくかは大きな命題ですが、このエコシステムに関する2つのフレームは、企業がDXを高度化する上で基盤となる概念として紹介されています。

 これらへの理解を深めることによって、バリューチェーンの認識が拡張し、これまでは視野に入っていなかった領域にも収益につながる要素があり、自社で提供している価値を補完し、バリューチェーンを拡張するために必要な補完財(企業や組織、自社にないアセットなどを補う存在)と、それらが構成するネットワーク(補完ネットワーク)も意識できるようになります。

 プロダクション・エコシステムは現状のビジネスモデルの延長線上にありますが、コンサンプション・エコシステムでは、今の自社では届かないバリューチェーンの先にある果実に手を伸ばすことになります。そのためには補完財ネットワークの力が必要であり、それを意識できれば、その存在と接続するために必要な仕組みや実行しなければならないことも見極められるようになっていきます。

 この2つのフレームをベースに、企業は自社の現在の状況や、現在はつながっていないが今後つながっていくべきプレーヤーは誰なのか、また、その時どうやってデータを連携すれば、よりバリューチェーンが拡張できるのかといったことを検討できるよう、本書では事例を挙げて説明しています。

 3つ目は「デジタル顧客」です。これも言われてみたら当然のことではあるのですが、明確には認識できていなかった要素です。自社の顧客をデジタル顧客と捉え直すと、企業は顧客に対して何をすべきかが見えてきます。

 顧客をデジタル顧客と捉え直せば、彼らはインタラクティブ・データの発信源となり、自社とつながり続ける存在になります。そうなれば、顧客に対してそのためのインターフェースを提供しなければデータは手に入らないなど、企業がそのための環境整備として何を行わなければならないかが理解できます。
 

NTTデータグループ コンサルティング&アセットビジネス変革本部 副本部長
野崎大喜 氏

Foresight Consultingを旗印に
伴走型支援で顧客企業に貢献する

──今回の翻訳のプロジェクトを主導したのは、野崎さんが所属しているコンサルティング&アセットビジネス変革本部です。この組織のミッションと、同本部が今回の本の翻訳を担当することになった背景を教えてください。