冒頭で企業を取り巻く環境が変化したと述べましたが、デジタル化、データ活用という潮流の中にあって、従来我々が提供してきたシステム開発という価値の他に重要なことが出てきました。それはまさに、激しく事業環境が変化する中、顧客企業自身がどうあるべきなのかを示すことであり、冒頭のメソドロジーによるForesight起点のコンサルティングを提供することです。NTTデータ全体が高い品質でこのForesight起点のコンサルティングを提供できるよう推進するのが、私たちコンサルティング&アセットビジネス変革本部です。
また、現在のデジタルの世界では、1、2年かけてシステムを作って終わりというのではなく、そのシステムを通じて、デジタル顧客が膨大なインタラクティブ・データを生み出しながらサービスを利用することになります。デジタル顧客がより満足度の高い体験を得られるよう、サービスを改善し続ける必要があります。
もちろん作ったシステムの効果が限定的で、失敗に終わる場合もあるため、アジリティ高く別の施策を打つことも意識しなければなりません。
こうした状況を踏まえると、過去の実績を抽象化したモデルをアセットとして蓄えておき、別の案件にも適用できるようにしておくことでアジリティを高める必要があるということになります。
当社のコンサルタントが、こうしたアセットをフルに活用して顧客企業の事業成果に結び付ける。こうした伴走支援のスタイルをNTTデータが担う。世界中で提供しているさまざまな実績をあらゆる顧客企業に提供するための仕組みづくりも、コンサルティング&アセットビジネス変革本部の役割になります。
無人店舗やドローン運航管理
NTTデータが見せるデジタル社会
──直近で成果といえるNTTデータの支援例をご紹介いただけますか。
今回の本の中で書かれている「バリューチェーンを拡張して、補完財とつながる」という観点に近しいものとして、支援先の企業が当社を補完財としてDXの高度化を行っている事例があります。
例えば株式会社ダイエーとの取り組みでは、「CATCH&GO」(キャッチアンドゴー)を活用したウォークスルー型の無人店舗があります。
この事例は、今回のフレームに照らして言えば、コンサンプション・エコシステムの前段階である「データドリブン・サービス(既存のバリューチェーンの中で生まれる)」に当たると言えます。
これまでの小売店のバリューチェーンは「商材を販売する」ことですが、デジタルテクノロジーの活用で、来店者にはストレスの少ない買い物体験を提供しながら、店舗は顧客の買い物行動をデータで分析し、より高度な体験を提供していくことが可能になります。
また、法整備と社会への実装が進むドローンにおいても、我々の提供価値が示せる事例があります。これは、既存の鉄塔や送電線の上空をドローンの運航レーンとして設定し、各社で共有しようというもので、事業体として「グリッドスカイウェイ」を設立、当社も参画しています。この例でも、これまでドローン単体や運行管理の面で関わってきたNTTデータが、他の事業者との補完財の役割を果たせると考えています。
こうした取り組みを通じて当社が感じているのは、顧客企業に対してシステムやサービスを提供するだけでなく、企業と企業をつなげ、利害調整も含めてプラットフォームを提供するという役割が求められているということです。これはまさに、今回の書籍に書かれている製品連携プラットフォームであり、やがてコンサンプション・エコシステムにつながっていく事例として、使命感を持って推進していかなければと感じています。
──野崎さんは本書のあとがきで興味深い所感を述べておられます。ご紹介いただけますか。
NTTデータグループでは、現在全世界で20万人ほどのメンバーが活動しています。これまで、システムは日米が世界に先行しているといわれてきました。しかし、日本のシステムは独自性が高く、日本で作ったものは海外には適用できない、海外で出来上がったシステムは日本では使えないということもよくありました。
GAFAMなどの巨大IT企業が世界市場を席巻し、ディスラプティブ(破壊的)なデジタル企業が今も次々に参入している現状において、閉鎖的な独自路線では到底優位性を維持できません。
今、デジタルをフル活用したサービスを提供する企業は、いかに顧客体験を高めるかに全力を挙げている状態です。そのためには、まさにインタラクティブ・データでデジタル顧客とつながることが必要です。そこで重要となるのが、サービスの型を抽象化することです。
業界を問わず適用できる顧客体験向上につながるサービスの型は、実はそんなにバリエーションがあるわけではないと考えています。抽象化によってその型を把握できれば、異なる業界であっても適用可能です。そうした知見を当社の全世界の拠点で集め、コンサルティングに従事する社員が共有できるようにしています。
その上で、そうした当社内の集合知をForesight Design Methodというメソッドに昇華させ、顧客企業に提供しています。
──スブラマニアム教授と対談された際、「磁石と砂鉄」の例えを示されました。どういった思いがあったのでしょうか。
ここで一番伝えたかったのは、「どんな施策も、市場に当ててみないと結果は分からない」ということです。自社が描く世界観を実現できているか、繰り返しマーケットで試し続けなければいけない、ということを伝えたいと思ったのですがデジタルが支配する社会の不確実性はなかなかイメージしにくいため、視覚的なイメージとして磁石と砂鉄を例に取ったのです。
砂鉄が散らばっているところ(市場)に磁石(戦略やビジネスモデル)を近付けると、磁力に引き付けられた砂鉄が、独特の紋様(市場の反応の結果、すなわちビジネスの結果)を浮かび上がらせます。先述の「顧客体験向上につながるサービスの型」はあれど、どんな紋様が現れるかは、磁石を実際に当ててみないと詳細なところは分かりません。うまくいかなければ別の磁石を当ててみるなど、そうした繰り返しをしていくことこそが、求める成果に近付けていくことに他なりません。これを顧客企業にはぜひ実行していただきたいですし、これこそが、ビジネスモデルを試行錯誤しながらアジャイルに高度化し続け、このデジタルの世界で生き抜いていくために欠かせない姿勢である、ということを伝えたかったのです。
加えて、デジタルの世界では、デジタル顧客が増えないと成果に近付かないことがあります。デジタル顧客が一定数に到達していないから成果が出ていないのか、ビジネスモデルが良くないから成果が出ていないのか。デジタル顧客を増やすために継続的に投資していくのか、見切って撤退するのか。実はデジタルの世界での競争の難しさの1つに、この見極めの難しさがあります。
顧客の嗜好は業界などによってまちまちです。他の業界での好事例を抽象化しても、自分の業界の顧客には、うまく当てはまらないこともあります。常に試しながら進めるしかないわけですが、成功確率は上げる必要があります。世界中の磁石と砂鉄の事例を踏まえ、NTTデータはその成功に貢献していきたいと考えています。

──NTTデータは、事業変革パートナーとしての存在感が増しています。ただ、伴走型のコンサルティングファームが多い中で、野崎さんはどのようにソートリーダーとして変革を先導していくのでしょうか。
これからデジタルの世界で事業を進めるには、とにかくアジャイルに繰り返しトライし続けなければなりません。また、これまで大きな変革を求められるタイミングは20年に一度程度だったものが、2、3年に一度ほどの頻度で訪れるようになりました。できなければ取り残されるわけですが、すべての変化に完全に対応できなくても変化し続けること、トライし続けることを止めずになんとかソフトランディングで切り抜けていく。そんなイメージを持って臨んでいくしかないと考えています。
私が所属するコンサルティング&アセットビジネス変革本部は、NTTデータの変革の先頭に立つ存在です。自社の変革に携わりながら、そこに生じる痛みと処方箋を知見として磨き上げ、支援している顧客企業に提供していく。自社の変革と、対外的にデジタルで価値を創出していくことは、今後も不可分と認識しています。
こうした活動を進める中で、NTTデータが今後広く社会に貢献すべきことは、先ほども触れましたが、企業と企業、業界と業界をつなぐ役割を果たすことであり、これに対する社会の期待も大きいと認識しています。当社がプラットフォームとなって、さまざまなプレーヤーをつなぐ。それによって社会課題を解決してくことができれば、と考えています。
NTTデータ
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