新贅沢財市場の登場

 アメリカにおける中流市場の消費者たちは質と嗜好の点で高級化しつつある。中流市場(年収5万ドル以上)を構成する4700万世帯はかつてないほど高学歴で、豊富な旅行経験を持ち、可処分所得もおよそ1万ドルに上る[注]。

 その結果、中流市場ではお目にかかれない、昔ながらの職人芸を伝えるようなデザインにもつくりにも優れた品には20~200%価格が高くても喜んで支払うようになった。たとえ必需品でも、このような商品ならば消費者の心をくすぐり、よりよい暮らしを熱望する人々の心を煽る──これが最も重要なポイントである。

 このような品を「新贅沢財」(new luxury goods)と名づけよう。かつての旧贅沢財と異なり、こうした品々は比較的高価であるにもかかわらず大量に売れる。

 企業側は、自動車、家庭雑貨、家電、エレクトロニクス、靴、衣料品、食品、パーソナル・ケア用品、ペット用品、スポーツ用品、玩具、ビール、ワイン、酒等、さまざまな贅沢財や高級サービスを新たに提供している。新贅沢財市場の最前線を走る企業は、従来のライバルの遠く及ばない収益性と成長率を達成しつつある。

 季節の材料を使ったサンドイッチが売り物のベーカリー・カフェ・チェーン、パネラ・ブレッド(以下パネラ)を例に取ってみよう。パネラの顧客は行列に並んで6ドル前後のチキン・パニーニを買い、快適で居心地のよい店内で友人や同僚と食事を共にする。

 2002年第1四半期から第3四半期までのパネラの売上げは、前年同期比で41%増であった。これとは対照的に、チキン・サンドこそ約3ドルだが、硬いプラスチックの椅子に座って食べるバーガー・キングの売上げは横ばいだった。

 アメリカ国内でのパネラの2002年売上予想は7億5000万ドル。これはバーガー・キングの同年売上げ85億ドルからすればほんのわずかにすぎないが、パネラの時価総額はいまや同年に売却されたバーガー・キング(15億ドル)の3分の2に迫っている。