不採算顧客はダイヤモンドの原石かもしれない

 売上げに貢献しない顧客は厄介者である。マーケティングの専門家は、企業に顧客ポートフォリオの採算分析を勧め、うまみに乏しい顧客は容赦なく切り捨てるようアドバイスする。ロイヤルティ研究の専門家は、顧客リテンション戦略の対象となるのは収益性が高い優良顧客だけと主張し、「役に立たない顧客」には他社との取引を勧めるように言う。

 さらにCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)ソフトの開発会社では、パフォーマンスが悪い顧客を特定するソフトまで開発し、不要な顧客は実に効率よく剪定されることになった。

「採算性に乏しい顧客は追い払うべきだ」と言われれば、まったくもって当然のことと思われる。企業である以上、利益を生み出さない顧客を勧誘し、貴重な経営資源を費やしてまで取引するわけにもいかない。

 しかし、現時点で採算が合わないというだけで、顧客とのリレーションシップを無価値と見なしてしまうのは性急であり、場合によっては自社に損害を与えかねない。

 顧客の数はけっして無限ではなく限りがあり、これらすべての収益性を検討すべきである。企業幹部として考えなければならないのは、「どうすれば採算性に乏しい顧客を追い払うことができるか」ではなく、「どうすれば他社が敬遠する顧客から利益を上げられるのか」である。

 うまみがあるとは到底思えない顧客でも、そのような目で見ると他社が気づいていない点に気づくことも多々ある。そうすれば顧客の採算性を根本から変えるビジネスチャンスを創出することも可能だ。

 給与計算代行会社のペイチェックスも小企業を対象に事業を始め、いまでは年商約10億ドルの企業へと成長した。もともとこの業界では、小企業には給与計算代行サービスを受ける余裕がないというのが通説で、大手の代行会社は小企業を見込み客とは考えていなかった。