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予算管理がもたらす数々の弊害
予算編成──。多くの企業は予算を管理しているが、これを廃止すべきである。過激な提案のように聞こえるかもしれないが、中央集権的なヒエラルキーを脱し、市況に応じて機敏に調整できる分権的なネットワーク組織へと変革しようと、長い時間をかけてチャレンジしてきた。予算管理の廃止はその努力の集大成となる。
他の戦略はすべて揃っている。ITネットワーク、リエンジニアリング、EVA(経済付加価値)、バランス・スコアカード、そしてABC(活動基準原価計算[注1])など、多くのマネジメント・ツールに巨額の金が投じられてきた。にもかかわらず、新たな秩序を形成できずにいる。依然、予算やそれに基づいたコマンド・アンド・コントロールの文化が優勢なのだ。
しかし経営陣は、「社員にはCEOと同じだけの権限を与えている」と公言してはばからない。現実には、コンピュータ・システムの総力を結集し、うんざりするほど克明な記録とにらめっこしている。
しかも予算をベンチマークにして、営業チームの電話代が通常より高いことや、四半期の交際費が予算を下回った理由を問い詰める。営業チームが売上予算を達成できそうもないと判明すれば、「CEOと同じ権限」などあったものではない。彼らはそのような顛末を恐れ、顧客に泣きつき、注文を入れてもらう。この場合、当然ながら顧客は後で返品する魂胆である。
逆に、期せずして売上予算を上回ると見込まれれば、商品の納入を次年度にずらすように顧客に頼み込むに違いない。ばかげたことだが、こうして貴重なキャッシュフローを繰り延べるわけだ。
予算に基づいて業績改善を無理強いすると、企業倫理の崩壊を招く可能性もある。倒産したワールドコムは現在強制捜査中だが、CEOであったバーナード・エバースの有無を言わせぬ要求に、元社員たちは口を揃えて「あらがいがたいものがあった」と言う。
2002年の『フィナンシャル・タイムズ』紙は、「彼は予算を課したうえで、さらにそれより2%低く抑えることを命じたものです。それ以外はいかなることも受け入れられませんでした」とワールドコム元社員の証言を報じている。