大企業の新規事業は、往々にして、これらのステップの「実行する」しかやっていない。担当者は「ビジネスモデルを構想し、そのための戦略を立てている」と言うかもしれない。しかし、私たちから見れば、それぞれが不十分極まりなく、ビジネスを実行することを急ぎすぎている。だから小さな事業にしかならない。 

 5つのステップに分けているのは、それぞれが非常に重要で、それぞれに十分な力を注がなければ事業が立ち上がらないからだ。この点は強調しておきたい。

社会課題を甘くとらえるな

  社会課題をビジネスとして解決する仕組み──ビジネスプロデュースを考えるうえで、最も重要なことは、社会課題の分析だ。重層的な社会課題のどこを解決するのか。どこを解決するのに自社の強みが使えるのか。じっくりと考える必要がある。 

 ちょうど2000年頃に、ごみの量が増え、ごみの最終処分場の不足が問題となった。単純な問題解決方法は、最終処分場を増やすこと。ところが国が試算すると、用地買収だけで約10兆円の費用がかかり、しかも10年以上かかる見通しだった。これでは解決策にならない。 

 そこで国は資源有効利用促進法や容器包装リサイクル法、家電リサイクル法、建設リサイクル法、食品リサイクル法など、多くのリサイクル法を整備し、「リデュース(減少)」「リユース(再利用)」「リサイクル(再生利用)」の3Rを促進することで何とかごみ問題を解決した。 

 しかし、ごみ問題の解決策はほかにもあった。ドイツやスペインでは、光学分別機を使い、プラスチックごみをポリプロピレンとポリエチレンなどに分別。それぞれをリサイクル活用する企業が高い収益を上げるビジネスを成立させている。 

 使われている光学分別機はドイツ製だが、分別技術は実は日本の技術だ。ただし、技術や機械があっても価格が高ければビジネスにならない。リサイクル活用する仕組みをデザインし、使用を促進するルールもいる。これら3つがセットになって初めてビジネスが成立する。 

 ごみの山にはプラスチック以外にも、レアメタルなど再資源化が社会課題の解決になり、かつビジネスになりうるものがある。どの社会課題の解決に自社の強みが使えるのか。それが見つかるまで、社会課題を掘り進む。社会課題が大きければ、必ず接点が見つかる。社会課題を何となく表面的にとらえていても、ビジネスの種は見つからない。

社内ではなく社外に注意を向けよ

  次なる本業となる新規事業開発に取り組み、成功した企業の事例が富士フイルムだ。もっとも、富士フイルムの場合、デジタルカメラの登場によって、本業の写真フィルム事業が急速に衰退することが予見できた。だからこそ、新規事業に強い危機意識を持って真剣に取り組んだ。逆に言えば、そこまで追い込まれないと、大企業は新規事業に真剣にならないのかもしれない。 

 富士フイルムは、化粧品事業や医療機器事業に新たに取り組み、本業で培ったたんぱく質を制御する技術や色素をコントロールする技術などを活かす道を模索。経営の柱となる事業を生み出すことに成功した。

 日本の大企業には、製品やサービスに活用されていない技術が多々眠っている。そうした技術を整理し、いざという時に使えるように準備しておくことは大切だ。

  しかし、その技術ありきで新規事業を発想してもうまくいかない。富士フイルムも、医療機器やヘルスケアといった社会課題の解決のために自社のどの技術が使えるかと考えた。社会課題の研究と自社の強みの整理は、新規事業開発の両輪であり、両方を常にやっておく必要がある(図表3)。

 同時に、どこかでつながらないか、アンテナを張っておく。すると絶好のタイミングで新規事業に着手できる。 

 私たちは、さまざまな社会課題の研究を常に行っている。その多くはまだビジネスにつながっていないが、それでいいと考えている。なぜなら、物事は何でも「0→1」の段階が一番大変で、1の基盤があれば、2、4、6と増やしていくのは比較的容易だからだ。 

 ビジネスになる絶好のタイミングは、いつやってくるかわからない。ただ、1の基盤があれば、その好機を逃すことはない。日本の大企業は、自社内、業界内のことには常に目を光らせており精通している。その一方で、社外、別業界の企業の動向などにはうとい傾向がある。社会課題についても通り一遍の理解に留まっている。 

 もっと外に目を向けるべきではないだろうか。 

 そうした社外への意識が高い企業同士が一緒に社会課題の解決に取り組み、社会をよい方向に変えていく。それが現在の日本に求められていることだと私たちは考えている。

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