炭そ菌テロの思わぬ被害者
ピットニー・ボウズの戦略的意思決定

 2001年、炭そ菌に汚染された手紙が郵便システムを通じて全米に毒をまき散らし、死者まで出したことはご記憶のことだろう。この時、郵便機器製造で世界最大手であるピットニー・ボウズの経営幹部たちは、自分たちの顧客とその主要事業の両方が攻撃にさらされていることを知った。

 突如ピットニー・ボウズのオフィスには、郵便事業を営む企業のみならず、一般企業からも嘆願する声が怒濤のように寄せられてきた。何とかして死の細菌から守ってほしいという依頼であった。

 しかし、ピットニー・ボウズ──同社は41億ドルの売上規模を誇る郵便市場のトップ企業である──のコア・コンピタンスは、精密な郵便料金計器を提供して郵便料金収入を確実にすることであって、炭そ菌のような想像もつかないバイオ攻撃から顧客を守ることではない。

 市場の突然の変化に、迅速かつ効果的に対処する唯一の方法は、外部からアイデアを募ることである。ピットニー・ボウズはそう判断した。

 数週間のうちに、同社のエンジニアで編成された特別チームは、食品メーカーから軍のセキュリティ部門に至る幅広い業種から、82に上る有望なアイデアをかき集めた。

 次に、これらを検討に値する10ほどの案まで絞り込んだ。そして手紙や小包を開封した時に周りの空気を吸い上げるといったローテクから高価なハイテク装置まで、いくつかのアイデアが残った。