揺らぐアメリカ資本主義

 資本主義は衰退の一途をたどるのだろうか──。2002年、アメリカ大企業による不正会計が次々と発覚したのを受けて、『ニューヨーク・タイムズ』紙はこう問いかけた。書き手の結論は「おそらくそのような事態には至らないだろう」だった。腐ったリンゴが混じっていても、果樹園全体がだめになることはない、市場はいずれ優良企業とそうではない企業を峻別し、以前のような状態へと戻るというのだ。

 ただし、すべての人が楽観視しているわけではない。資本市場は法規制のうえに成り立っており、それらは真実と信頼を基礎としている。真実が覆い隠されたり、歪曲されたりすれば、資本市場への信頼は損なわれ、だれもそこで取引しようと思わなくなるに違いない。ひいては資本市場が空洞化して株価は暴落する。一般の人々は株式市場を見限って、不動産を購入したり、タンス預金に勤しんだりするだろう。

 蓄財の手段を提供し、富の創造を促すのが資本主義の大いなる美点だが、それにも陰りが見え始めている。したがって、我々は富の創造を政府に頼らざるをえなくなっていくのだが、これまでの実績を見る限り、政府の手腕ははなはだ心もとないようだ。

 数年前であれば、アメリカ型資本主義の勝利をだれも疑っていなかったため、以上のようなシナリオは極端で滑稽に見えただろうが、いまやこれを一笑に付す人などいないはずである。先頃相次いだスキャンダルでは、「『予想どおりの利益水準を確保できる』と資本市場に安心をもたらすため」に必要とあれば、また方便のためであれば、真実は造作なくねじ曲げられた。

 アメリカ系投資サービス会社の証券アナリスト、ジョン・メイによれば、ナスダック(アメリカ店頭公開市場)上位100社が公表した2001年1月から9月までの利益は、監査後のそれを1000億ドルも上回っていたという。ところがその監査後の利益ですら、往々にして化粧が施されているようだ。

 信頼もまた、もろいものである。陶器と同じで、いったんひびが入ると二度と元どおりにはならない。今日では企業、そして企業リーダーへの信頼にも大きなひびが入っている。多くの人々が、「経営者は消費者の利益を考えていない」としている。株主や社員の利益すらもないがしろにされていると受け止めている。経営者たちを動かしているのは野心と経済面での私利私欲だというのである。

 2002年、世論調査会社のギャラップによれば、アメリカ人の90%が「いまの経営者に、社員の利益を守ることは期待できない」と感じており、「企業は株主を大切にしている」という回答は18%にすぎない。それどころか、43%もの人々が「経営者は自分たちの利益しか考えていない」と断じている。イギリスで実施された別の調査によれば、同様の回答が実に95%にも達している。