大崎 画像検知や故障予知などでAIがかなり活用されるようになっていますが、これからはデジタル仮想空間でのシミュレーションが大きな流れになると思います。

 私たちは工場や都市空間、自然環境などをメタバース化し、物理的に正確なシミュレーションをリアルタイムで行うことを可能にするプラットフォームとしてOmniverse(オムニバース)を提供しており、製造、通信、建設、エンタテインメントなど幅広い産業、大規模な科学シミュレーションなどで利用が増えています。

 道路状況や気象条件などを変え、さまざまな環境下で自動運転車の安全走行をシミュレーションできるプラットフォームとして磨き上げてきたものですが、工場全体をデジタル空間に3Dで再現し、安全で効率的なものづくりを検証して、その結果をリアルな生産ラインの配置やロボットの動きなどに反映させることもできます。

 日本の強みである現場の力、ものづくりの力を拡張するためにも、AIを使ったデジタルシミュレーションをもっと活用すべきだと思います。

データを中核としたエコシステムが企業の競争力に直結

首藤 ものづくり大国の復権に向けては、開発・設計といった上流工程の図面データなどをデジタル化することも重要です。それにインデックスをつけてデータ資産として活用できる状態にしてバリューチェーン全体をつなげば、より精緻でスピーディなものづくりができます。

 もう一つ、日本は人口減少がこれからも続きますから、海外市場の開拓がいままで以上に重要になります。進出先の現地企業やすでに進出している日系企業などとデータを相互活用し、市場の文化特性やニーズに合ったCX(顧客体験)をつくり上げていく。その能力によって、市場開拓のスピードが格段に違ってきます。

 そうしたものづくりやCXの変革を実現する前提となるのがデータ基盤の整備です。日本企業では事業ごと、機能ごとにデータベースが別々になっていて、データも標準化されていないことが多いですが、それでは部門や企業の壁を超えてデータを相互活用することができません。また、AIに学習させるのも限界があります。データ資産を自社の競争力向上に役立てるには、データ基盤の整備が欠かせません。

大崎 キーワードはやはり、“つながる”ですね。AIを効果的に開発・活用するにはエコシステムやアライアンスの形成が重要なカギになります。三井物産と当社が協業し、国内の創薬研究の加速を目指すプロジェクト「Tokyo-1」が2024年から本格的に始動しました。

 アステラス製薬、第一三共、小野薬品工業の3社がこのプロジェクトに参加していますが、参加企業はエヌビディアのスーパーコンピュータや創薬用の生成AIプラットフォームを利用できるほか、非競争領域において定期的な情報交換や知見共有を行います。高解像度分子動力学シミュレーションや生成AIモデルなどの開発・活用を促進し、日本の創薬力を高めるプロジェクトとして期待されています。

 今後は他の製薬企業やスタートアップも参加する予定です。創薬以外の分野でも、こうしたエコシステムがもっと生まれていくといいと思います。

首藤 同感です。個人情報や機密性の高い情報は匿名化したり、暗号化したりすることでデータを相互活用することができますし、アルゴリズムだけを共有するという形もあります。データを中核としたエコシステムやアライアンスが、企業の競争力に直結していくのは間違いありません。

 では最後に、大崎さんが今後チャレンジしていきたいことをお聞かせください。