サマリー:生成AIは、生産性向上に大きく寄与する革新性を秘めている。そのポテンシャルを解き放つには、業務への実装をどのように進めていけばいいのか。独自の生成AI活用サービスを開発したSBテクノロジーに聞いた。

先端テクノロジーの存在をいっきに身近なものにした生成AI(人工知能)。人手不足が深刻な我が国では、生産性向上の切り札として期待が高まる。一方、情報漏えいやスキル不足の懸念などから、業務での活用に二の足を踏む企業も多い。そうした中、ソフトバンクのグループ企業であるSBテクノロジーでは、全社員が実業務での生成AI活用を試みるとともに、顧客企業への導入支援を通じて技術やノウハウを蓄積。それを反映して、生成AIを手軽に安心して使える新サービスの提供も始めた。生成AIの業務実装の進め方と新サービスの特徴を同社に聞いた。

生成AIの登場で「世の中は次のステージに進む」

 2022年秋、米オープンAIがChatGPTを公開したことであっという間に世界中に広まった生成AI。いま最も注目される先端テクノロジーであり、各種調査では生成AI市場の急拡大が予測されている。

 たとえば、電子情報技術産業協会(JEITA)が2023年12月に発表した調査結果では、生成AI市場の世界需要は年平均53.3%の勢いで成長、2030年には2110億ドル(約31兆円)に達し、23年の約20倍の規模になると見込まれている。

「メールの返信や報告書の作成、資料の要約など日常業務ですぐに使えるのが生成AIと従来のAIの大きな違いです。人手不足が深刻な日本にとって、その恩恵は計り知れません」。そう語るのは、SBテクノロジー 執行役員 サービス統括 セールス&マーケティング本部長 兼 CMO(最高マーケティング責任者)の上原郁磨氏だ。

 SBテクノロジーは、国内でクラウドサービスが普及し始めた当初から、クラウド上でのシステム構築やクラウドソリューションの導入を支援し、またセキュリティ監視センター(SOC)で専門アナリストが顧客企業のセキュリティシステムの監視を行うマネージドセキュリティサービス(MSS)を提供するなど、クラウドとセキュリティの技術力という強みを活かして、大企業、官公庁・自治体を中心に数多くの組織・団体のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を支援してきた。

 同社では、「AIで世の中は次のステージに進む」(上原氏)と確信、2022年度からクラウドとセキュリティという自社の強みに、AIをかけ合わせた事業展開を加速させていくことを経営レベルで決定していた。その矢先に登場したのが、ChatGPTだった。上原氏ら社内のAI専任チームは、公開直後からChatGPTの業務活用を試みた。

「どの企業でも、メールを作成したり、会議に備えて資料を読み込んだりといった日々の業務に意外と多くの時間を割いているものですが、それを生成AIに下書きさせる、資料のポイントをまとめさせるだけでも生産性は大きく変わります」(上原氏)

 言うまでもなく、生産性の向上は日本全体で積年の課題となっている。人口減少が続く一方で、2022年の我が国の時間当たり労働生産性はOECD(経済協力開発機構)加盟38カ国中30位と、比較可能な1970年以降で過去最低を記録した(日本生産性本部調べ)。働き手が減り、生産性も上がらなければ国の経済力も企業活力も衰えるばかりであり、使える先端テクノロジーを存分に活用すべきことは論をまたない。

 SBテクノロジーが顧客企業に生成AIの活用を提案すると、ほぼ100%「導入すべきだと考えている」という回答が返ってくるという。「ただ」と上原氏はつけ加える。「残念ながら、そこから先へ一歩を踏み出せない企業が多いのです」

 その理由はどこにあるのか。そして、生成AIの導入をためらわせる要因をクリアし、生産性向上の成果を上げるにはどのように業務実装を進めていけばいいのか。

 全社員約1000人が利用可能な生成AI活用アプリケーションを短期間のうちに独自開発し、それをベースに企業が日々の業務で生成AIを活用できる新サービスにまで発展させたSBテクノロジーをケースに、その答えを探っていこう。