知恵を持ち寄って気軽に対話ができる場づくりが不可欠

 石川氏が問題提起した後のパネルディスカッションでは、双方向コミュニケーションツールを活用し、パネリストと参加者が一体となって白熱した議論が行われた。

「自律協生社会」では、市民だけでなく、行政や企業、団体などがそれぞれ「個」の役割を果たし、互いに連携しながら豊かな社会をつくり上げていく。

 この点を踏まえ、まずは全国で産学官民プロジェクトを展開するリ・パブリックCo-CEOの市川氏に、それぞれ立場の異なる「個」を、どう結びつければプロジェクトが動き出すのかについて三輪氏が尋ねた。

リ・パブリック
Co-CEO
市川文子氏
広島県出身。慶應義塾大学大学院修了後、北欧の通信会社ノキアに入社し、技術起点の製品づくりが主流であった当時、文化人類学を用いた開発プロセスに従事。2013年リ・パブリック設立。東京・福岡に拠点を置き、国内外で産学官民を横断した社会変革・市場創造のプロジェクトを推進。アジア太平洋地域の社会起業家のメンターを務めるほか、サーキュラーデザインファームのfog取締役を兼任。

 市川氏は、「従来、サービスの担い手と受け手は、行政と市民、企業と消費者といったように一対一の関係が当たり前でした。狭い関係の中のやり取りだけでは、新しい発想は生まれません。より多くのステークホルダーを巻き込み、互いに影響し合えるエコシステムの形成が求められるのです。そのためには、知恵を持ち寄って気軽に対話ができるような場づくりが不可欠です」と提言した。

 対話の重要性について賛同したのが、芦屋市長の髙島氏である。髙島氏はオンラインで参加した。

芦屋市長
髙島崚輔氏
大阪府出身。2016年グローバルな学びのコミュニティ・留学フェローシップ理事長就任。2019年芦屋市企画部政策推進課にてインターンシップ。2022年米国ハーバード大学卒業(環境工学専攻、環境科学・公共政策副専攻)。2022年公文教育研究会学習者アドバイザーに就任。2023年全国で歴代最年少の26歳で芦屋市長に就任し、「対話」を重視した市政運営を推進。

 髙島氏は、教育改革を市政の柱に掲げ、「未来世代と『ちょうどの学び』を公立で実現したい」という教育大綱(ビジョン)を策定。それぞれの子どもの個性・特性や興味・関心、理解度に応じた「ちょうどの学び」を実現するため、市内の全中学校の生徒と意見交換を行っている。「ビジョンを具現化するには、当事者である子どもたちとの直接の対話が欠かせません。教育以外の政策についても、市民との直接対話を重ねています」(髙島氏)と説明した。

 市民との対話集会で髙島氏が心がけているのは、「必ず車座になり、市長から市民への一方通行ではなく、市民から市長へ、市民から市民へという多方向の対話が生まれるようにすること」だという。

「市民同士が互いの抱える課題に共感し、アイデアを出し合うことで、一緒に課題を解決していこうという気持ちが醸成されるのです。もちろん、まちづくりのプロである市が支援できることはしっかりと後押しし、必要に応じて民間にも協力を呼びかける。車座による対話を起点に、さまざまな『個』の連携が生まれるのです」(髙島氏)