経営者たちのITプロジェクトへの不満はいまだ解消されない

 我々はこの数年間、経営者の多くが自社のIT戦略とIT部門に欲求不満を感じ、時にはたいそういら立っている様を目の当たりにしてきた。当センターでは「非IT部門担当エグゼクティブ向けのITセミナー」を開催している。このコースを受講した1000人余りの経営陣から繰り返し聞かれる文句は、だいたいこんな具合だ。

「どうすればいいのか、皆目見当もつきません。私は微に入り細にわたるマネジメントができるほど、ITを熟知しているわけではないのです。IT部員は一生懸命働いてはくれるけれど、私が抱える問題の本質などまるで理解していません」

 CEO、COO、CFOなど執行役員たちが最もよく口にする不満は「高価なテクノロジーを導入したのに、事業価値を満足に実現できない」ことだ。それどころか、IT投資は拡大する一方で、全社予算に占めるIT関連コストは増え続けている。はたしてそれほどの効果はあるのだろうか。

 当センターが全世界数百社を対象に実施したITマネジメントの実態調査によれば、ほとんどの企業がIT投資から創造しうるだろう価値を実現できていないことが判明した。その一方で、最適なIT投資によって効果を上げる企業もあり、競合他社と比べて40%も高いROI(投資収益率)を実現していることがわかった。

 ITマネジメントの成功企業と失敗企業には明らかな相違点がある。前者では、ITに関する重要な意思決定において、経営陣がリーダーシップを十分に発揮している。それとは対照的に、経営陣が責任を放棄してIT部門の責任者に決断を委ねてしまうと、惨憺たる結果となる。

 よく知られた例として、カスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)やERP(業務統合パッケージ)といった大規模システムの失敗が思い出される。これらCRMやERPの失敗は、複雑なシステムを立ち上げて起動させる際の技術面での混乱がその原因と思われているようだ。ところが本当は別のところにある。それは、このような大規模システムの導入時には技術面以外にもさまざまな課題が発生することを、経営陣が事前に認識できないことだ。こうも認識が甘いために、組織や業務プロセスに手を入れず、ITシステムの導入に失敗してしまう。

 このような不運な顛末は、ISPの利用拡大、従業員や顧客への携帯端末の導入、さらにはウェブサイトやコールセンター、ATM、携帯電話といった販売やサービスのオンライン・チャネルの統合といったITイノベーションを推し進める際にもたびたび繰り返されている。