だれもがカリスマCEOを求めるが──

 CEOとして成功を収める秘訣はリーダーシップをおいてほかにない。至るところでそう信じられている。戦略思考、業界知識、交渉力などはあるに越したことはない。しかしこれらはもはや決定打ではない。とりわけ企業が悪戦苦闘している時期には、新しいCEOを探す取締役をはじめ、企業動向を観察している投資家や評論家、ジャーナリストも、才能と経験を備えただけの人物では満足しない。真のリーダーが待望されているのだ。

 では、そのようなリーダーの条件とは何か。CEOのリーダーシップについて語る時、最も頻繁に使われるのが「カリスマ」という言葉である。リー・アイアコッカ、ジャック・ウェルチ、スティーブ・ジョブズといったスーパースターCEOのカリスマ性の秘密を解こうと、伝記作家やジャーナリストたちはおびただしい量のインクを費やしてきた。とはいえ、カリスマの定義は、芸術や愛のそれと同じくらい難しい。

 カリスマ性を重んじる人でも、この一語が意図するところを十全に伝えることはままならない。また、この言葉がキリスト教に端を発することを知る人はさらに少ない。

 新約聖書の一節で、使徒パウロはキリスト教徒に備わりうるさまざまなカリスマ、すなわち聖霊の賜物を列挙している。パウロの挙げた聖霊の賜物を備えた人間のなかには、弁舌に長けた者、奇跡を起こす者など、特別な天賦の才に恵まれた信者のほか、「優れたリーダー」も挙げられている。

 もちろん、カリスマの意味は聖パウロの時代からずいぶん変わってきたが、類稀なる精神力を備えた人物への尊敬の念、いや崇拝の念はいまでも根強い。現在では、カリスマという概念は、周囲の畏敬と服従を引き出す人格特性の集合体と理解されているようだ。

 エール大学経営大学院のジェフリー・ガーテンは、著書『世界企業のカリスマたち』のなかで、カリスマ性を備えたリーダーが発する霊気(オーラ)を生き生きと描いている。 同書では、AT&Tの元CEOマイケル・アームストロングとの初対面の印象について次のように描写している。

「(アームストロングは)ベテラン政治家のような自信と熱意と精力をあたりに発散していた。(中略)映画を撮影中の監督が、キャスト担当のディレクターに『CEO役を手配してくれ』と言うと、マイケル・アームストロングが配役された──まさにそんな感じだったのだ」