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知られざる大家
ヘンリー・ミンツバーグ
ヘンリー・ミンツバーグの名声は、1973年に再発行された『マネジャーの仕事』で確立され、75年『ハーバード・ビジネス・レビュー』に発表された「マネジャーの職務」でさらに高まったといわれる。ただし残念ながら、その後の著作の多くが日本語に翻訳されなかったこともあり、日本での知名度はあまり高くない(表1「ミンツバーグの仕事」を参照)。
しかし、『エクセレント・カンパニー』の著者、トム・ピーターズとロバート・ウォーターマンに「今世紀最高の経営思想家」と言わしめ、事実欧米においては、ピーター・ドラッカーや大前研一と比肩するマネジメント・グールーの一人に数えられ、経営学者でありながら他の経営学者とは一線を画する存在として高く評価されている。母国カナダでは政財界の御意見番でもある。
また「理論に縛られない理論家」、あるいは「あまのじゃくな理論家」としても有名である。ミンツバーグはまず理論や常識を疑ってかかる。76年3月17日に始まったハーバート・サイモンとの往復書簡は何とも挑発的な内容であり、ミンツバーグの真骨頂といえよう。言うまでもなくサイモンは、78年にノーベル経済学賞を受賞する前から、『システムの科学』『意思決定の科学』という著述によって「希代の組織理論家」と知られる存在である。なお両者は、分析と直感の融合こそマネジメントの効果性を高めるという点で一致している。
そのほか、マネジメントの金科玉条ともいえるMBAプログラムへの批判、株主価値に重きを置くアメリカ的マネジメント・スタイルへの疑問等、いまでも遠慮ない。
彼は「二元論」(白黒、是非、善悪といった判断)や「要素還元主義」(細かい要素に分解して、一つの物体や事象を知る分析手法)に完全に身を委ねることはない。同時、唯一最善解など存在しないことを強調する。そう、常に矛盾と例外に対峙し、そこに本質を見出そうとするのだ。
かつてミンツバーグの研究室の壁には、アルバート・アインシュタインが述べた「手段と目的の混同こそ現代の特徴である」という言葉が貼られていたという。
現在、ミンツバーグは研究よりも教育にその時間を費やしている。ただしそれは学生の教育ではなく、次代のリーダーたちの教育である。これは彼自身がたどり着いた一つの結論でもある。ミンツバーグ曰く「マネジメントはリーダーシップにかかっている。これは教室で教えることはできない[注]」。